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猫の憂鬱
第4章
―4―
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ドイツ行って来ます、ドイツ建築見て来ます!って、ど突いてやろうかと思ったけど、実際有給溜まってたし、……おい、大丈夫か?
――え…?
――いや、大人しいなぁって思ってよ。

心臓が、締まった。

――本当、疲れたんですよ…、食事も合わなかったし…
――あっはっは、じゃあ一寸は痩せたか!?お?御前、設計士っつーより、現場っぽいもんな、あはは。
――帰国して間が無いんですよ、実際今、寝てましたし。
――おー、済まん済まん。

今迄有難うな。
電話から漏れた労いの言葉に状態が飲み込め無くなった。

――社長…?
――独立、頑張れよ。其れが云いたかったんだ。御前はな、良い職人になるよ、本当。今迄、有難う。

こんなに虚無感と罪悪感を覚えた事なかった。
そんな人間の人生を、俺は……。
自首しよう、其れが良い、兄貴がどう動いてるか判らないけど、無理だ、こんな。
そんなコウジの揺らぎを察知したのか、コウジの携帯電話が鳴った。
国際電話。

――兄貴…
――タキガワセイジは無事死んだよ。肋骨行ったけど…、息するのも痛い…
――兄貴、あのな…!
――ん?
――あのさ、俺…
――自首しよう、なんて云うなよ?

柔らかい声だが、其れは脅迫であり、命令だった。
駄目だ、俺が、殺される…
兄は何時でも恐怖の対象で、コウジの支配者だった。

――あ…

兄の恐怖に喉が干上がった。痛い程声帯は乾き、唾を飲み込む度激痛を伴った。

――雪村さん、建築士、だった…
――そうなの!?…いっ…、其れは都合が良い。
――兄貴、大丈夫…?
――嗚呼、僕は心配無い。

復讐を始めると、悪魔の吐息を鼓膜に知った。
もう、戻れないんだ…。
悟った。
雪村凛太朗は、細かい性格なのか、携帯電話の自分の情報に住所を記入していた。翌日、ホテルから出たコウジは住所をタクシー運転手に告げ、雪村凛太朗として生きる道を選んだ。
雪村の部屋は、几帳面さが見て取れた。洗濯機は空で、きちんと畳まれている、クローゼットに掛かるシャツもクリーニング済みのビニールの儘下がっていた。
恋人は?居ないの?
無人の部屋に呟いた。
仕事を軌道に乗せる迄、一切を経っていたのか、雪村の部屋は全く女っ気が無かった。女物のスキンケア用品は疎か、アメニティ用の歯ブラシさえなかった。洗面台に置かれる歯ブラシは一本、洗面台の下にストックが何本かあるだけだった。
其処からコウジは、パソコンや書類を漁り、雪村を一層把握した。前の工務店から引っ張って来たであろう先方に自ら連絡を入れ、雪村凛太朗を徹底した。
随分と古風な人間…。
パソコンで設計図を作る建築士が多くなった今、雪村は態々設計図面台を自宅に置いていた。其の真ん中、定規が上下左右に伸びる一眼レフのよ
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