第4章
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そうだったら、其の儘其の仕事に就いたら良い。
――兄貴…は…?
――僕は此の儘、彼を僕に見立てて殺す。ボンネット凹んじゃってるし、何処かに突っ込むよ。
――其れで…?え…?
――僕が証言する、死んだのが兄貴だと。
兄が一体何を考えて居るのか、全く判らない。冷静なのかそうで無いのかも判らず、コウジは頷くだけだった。
――いや、だからさ、俺が死んだ事にすりゃ良いじゃん…?
顔面の横に叩き込まれた拳にコウジは怯えた。
――聞こえなかったかな?死んだのは、セイジ。
此の兄は、昔からそうだった、自分が従わないと平気で手を下す人間だった。壁から離れたセイジの拳は血が滲み、助手席に乗せて、と雪村を指した。
――じゃあね、コウジ…じゃなかった、凛太朗。日本で待ってて。
トランクは、重かった、タクシーの中でずっとパスポートを見、兎に角出国検査の時聞かれそうな事を頭に叩き込んだ。唯、簡単だった、日本人が日本…自国に行くのだからスムーズだった。顔が似てるだけでこんなにも簡単に通れるものなのかと、疑った。
パスポートが本物だから。
唯、渡した人物が違うだけ。其のパスポートも十年期間のもので、発行日が八年前と古かった。八年あれば、大体人相は変わる、だから怪しまれなかった。
名前と生年月日であっさり通れた。
本当にこんな事で大丈夫なの?と怯えた位だった。日本に着いた瞬間逮捕されるんじゃなかろうかと怯えた。
雪村が結婚していたらどうする?妻になんていう?流石にバレる。
然し雪村は、独身だった。此れはセイジが疑った。
二十代半ばで結婚してる奴が、大体新婚だと思うけど、指輪してないなんておかしいじゃん。此れ見よがしに嵌めてるよ。
日本に着いたコウジは其の儘ラブホテルに向かい、一日前に起きた事を反芻した。
殺した、俺が、殺したんだ…
脳裏に焼付く雪村凛太朗の屈折した身体を流すように頭からずっとシャワーを浴び、泣いた、罪悪感に泣き、兄の恐ろしさに泣いた。ぐしゃぐしゃの頭で荷物を確認し、携帯電話を確認し、雪村凛太朗を把握した。
名刺には設計士とあった、勤務する工務店の番号もあった。電話には取引先や上司、同僚の番号がある。
建築士…。
何処迄も幸運だった。
コウジは理工学部で、建築士の資格を持っていた。学校卒業後、就職した先の工務店と折り合いが悪く、無職であったに過ぎない。一年程だが、設計を携わっていた。
響く電話、肩が強張った。
――はい…
――おー、雪村、ドイツどうだった?
――疲れました…
本心だった、電話の相手は雪村の勤務する工務店の社長で、疑って居ないのか豪快な笑いを飛ばした。
――御前、突拍子過ぎんだもんなぁ、何時も。
――済みません…
――有給残ってますよね?仕事抱えてないんで
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