第一話・誕生
前書き
僕は目を見張った。
初めてこの目で見た怪人の姿に、恐怖した。
今、僕の目の前にいるのは、間違いなく人間ではないし、着ぐるみでもない。どことなく作り物めいてはいたが、街頭に照らされて光るその体表の粘液や、夜の闇の中でもギリギリ見て取れる筋肉や血管の蠢きは間違いなく生物のそれだ。
友達と一日中遊んで、適当に飯を食べて別れたその帰り。明日からまた講義があることを思い出して少し嘆きながら、最近買った中古のバイクに火を入れた直後に、僕はこの怪人と遭遇した。
黒い体表に、緑色の大きな複眼。人の形ではあったが、大きく鋭く尖った爪や、おろし金のように歯の並んだ口は、まさしく怪人と呼ぶに相応しかった。
「ギョワワワワワッ!」
怪人が咆哮する。一体どんな声帯を持ったらそんな声が発音されるのだろう。
怪人はその堅牢そうな爪を備えた手を広げ、威嚇するようにしてじりじりとコチラににじり寄ってきた。
僕は生まれて初めて、『命に関わる恐怖』を感じている。ゆっくりゆっくりと迫ってくる怪人は、僕を警戒しているようでもあり、或いは怯える僕を弄んでいるようでもあった。
「一体、なんなんだよ……お前は」
問うてみても返事はない。意味が分かっている様子もない。
「なんなんだよお前はァ!!」
その時、怪人は大きく手を広げ、その爪を振り被りつつ跳び上がった。
僕は反射的にバイクを発進させ、脱兎のごとく駆け出す。飛び上がった怪人の真下を通り抜けるようにして、その場から離脱した。
駅前の国道に出て、まだ車通りの多い夜の道を全速力で駆け抜ける。まだ心臓が早鐘を打つように鼓動していた。
アイツはまだ追ってくるだろうか。ミラーで後方を見る。
すると、恐ろしくも、後方の自動車の群れのボンネットや天井を、さながら源義経のように跳び移りながら此方に迫ってくる陰があった。
「ここは壇ノ浦じゃねえよ……っ!」
アクセルを思い切り回して加速する。制限速度はいくつだっただろうか。という疑問が過ったが、緊急事態なので頭の隅に押し込んだ。
すると、前方の信号が黄色く点灯したのが見えた。ここは公道だ、ただでさえ速度を無視しているのに、赤信号を渡るのはなんにしたって都合が悪い。
止まるか?いや、駄目だ。絶対に駄目だ。あんなのに追いつかれるのは絶対に……!
待てよ……ギリギリで通り抜ければ、もしかして……。
もう信号も、怪人も迫ってきていた。考える時間はない、覚悟を決めろ!
「あぁぁぁ!!間に合えええええ!!」
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