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第一章
過去、現在、そして未来
ホワイトハウスの会議室は騒然としていた。一人がだ。
会議の主賓の席に座る背筋の伸びた引き締まった顔立ちの男に述べた。
「大統領、本気ですか」
「その通りだよ」
その彼、ドワイト=アイゼンハワーはだ。その百万ドルの微笑みで彼に応えた。
「彼にするよ」
「しかし彼はです」
その閣僚はだ。咎める顔でアイゼンハワーに言ったのだった。
「その。過去に」
「そのことは私も知っている」
「では何故ですか」
「その過去故に現在の彼があるからだよ」
だからだとだ。アイゼンハワーは応えるのだった。
そしてそのうえでだ。こうも言う彼だった。
「少なくとも私はこの決定を変えるつもりはないよ」
軍人出身らしく実にきびきびとした声だ。その顔立ちも実にいい。表情が端正なのだ。
その彼がだ。こう言ったのである。
「彼にするよ」
「アール=ウォーレンにですか」
「彼を連邦最高裁判事にですか」
「決められたのですか」
「彼しかいないと言ってもいい」
また言うアイゼンハワーだった。
「そう、彼しかね」
「左様ですか、この状況においてですか」
「あえて彼をですか」
「最高裁判事にされますか」
「彼ならやってくれる」
その微笑みで述べるアイゼンハワーだった。こうしてだ。
連邦政府最高裁判事にだ。そのアール=ウォーレンが任命された。しかしだ。
その彼、背筋がしっかりとしていて丸眼鏡をかけた理知的な、学者を思わせる風貌の彼が挨拶にホワイトハウスに入った。その最初の会議においてだ。
誰もがだ。彼に侮蔑と敵意の目を向けてだ。こう口々に言ったのである。
「よく受けたものだな」
「そこまで権力の座が欲しいのかね?」
「それとも名誉が欲しいのかね?」
「君の名誉なぞ最早何処にも存在しないのだがね」
こうだ。敵意に満ちた目で口々に言ったのである。彼自身に対して。
アイゼンハワー、彼を任命した大統領は今この場にはいない。だから于余計にだ。
彼等はだ。口々に言ったのである。
「君の過去は知っている」
「そう、誰もが知っているのだよ」
「大統領候補にも副大統領候補になったことも」
「しかしだ。それ以上にだ」
「君のカルフォルニア時代のことを知っているのだよ」
言葉がだ。いよいよ剣呑なものになっていた。
そしてその剣呑な声でだ。彼等はウォーレンにその過去を突きつけたのだった。
「第二次世界大戦の時のことだよ」
「君は日系人の強制収容に賛成した」
「いや、賛成したどころではない」
「君はその人種差別主義政策を積極的に推進した」
「法律家としてそれを支持したのだ」
言葉は剣そのものだった。銃口さえ向けている。
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