第二百十三話 徳川の宴その六
[8]前話 [2]次話
「いやいや、これだけの馳走はでおじゃる」
「天下にないでおじゃるな」
「これまでも」
「なかったでおじゃる」
こう言うのだ。
「素晴らしいでおじゃる」
「そうでおじゃるな」
食べつつ唸っている言葉だった。
「しかも雅でおじゃる」
「料理一つ一つがとても奇麗でおじゃる」
「まるで絹か珠でおじゃる」
「この様なものを口にするのは」
「また辛いでおじゃる」
ただ美味いだけでなく飾り付けも見事でありだ、公卿達もそのことに唸るのだった。そして当の信長もだ。
その馳走を口にしつつだ、笑みを浮かべてこう言った。隣には帰蝶がいる。
「ここまで美味いとな」
「何かお困りでしょうか」
「うむ、料理人達に褒美を弾まねばならぬな」
「どれだけの褒美でしょうか」
「さて、どれだけのものなるか」
食べつつ笑っての言葉だ。
「わしも今すぐにはわからぬ」
「ここまで見事ですと」
「全くじゃ、しかもな」
「この宴はですな」
「本朝の馳走だけではない」
「南蛮の馳走も」
「それも出る」
こちらもだというのだ。
「そして南蛮の酒もな」
「あの伝え聞く」
「そうじゃ、あの酒もじゃ」
まさにそれもだというのだ。
「出る」
「左様ですか」
「だがわしは飲まぬ」
南蛮のその酒はというのだ。
「もっと言えば飲めぬ」
「そうですね、殿は」
「わしは酒自体が駄目じゃ」
この時もそうなのだ、やはり信長は酒は駄目なのだ。飲むことがどうしても出来ないのだ。それで言うのだ。
「だからな」
「今もですか」
「酒を飲まずな」
そして、というのだ。
「茶じゃ」
「そちらをですね」
「飲むとしよう」
「それは仕方ありませぬか」
「飲めぬのならな」
信長もいささか残念そうに話す。
「そうするしかないわ」
「左様ですか」
「しかしわしが飲めずともな」
「他の方々には」
「楽しんでもらう」
こう言って彼自身は酒は飲まず茶と馳走だけを楽しむのだった。膳は一つではなく幾つも出た。その中でだ。
明や南蛮の料理も出た、菓子もだ。そうしたものを食べて政宗も片倉と成実に満足している顔で言った。
「わしも食いものに五月蝿いが」
「それでもですな」
「これだけの味は」
「なかった、山海の珍味を揃えただけでなく」
それに加えてというのだ。
「醤油や味噌もな」
「違いますな」
「普通のものとは」
「どれも絶品です」
「これ以上はないまでに」
「うむ、あとじゃ」
政宗はここで酒を飲んだがその酒は赤い、その赤い酒は夜光杯の中にあったがその酒を飲んでこう言ったのだった。
「この様な酒もあるからのう」
「これは南蛮からの酒だとか」
片倉が言って来た。
[8]前話 [2]次話
※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりを挿む
[7]小説案内ページ
[0]目次に戻る
TOPに戻る
暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ
2024 肥前のポチ