第二百十三話 徳川の宴その四
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「そうさせてもらいます」
「やれやれです」
「酒だけはですか」
「どうしてもですか」
「それだけは」
「はい、しかし」
だがここでだ、謙信はこうも言ったのだった。
「酒もこれからは」
「これからはですか」
「その酒も」
「これまでより飲む時も量もです」
それはというのだ。
「かなり減ります」
「それは何故でしょうか」
「酒が減ることは」
「それは何故でしょうか」
「一体」
「はい、天下が泰平に向かっています」
それ故にというのだ。
「ですから」
「では今まで殿が酒を飲まれていたことは」
「ただお好きなだけでなく、ですか」
「天下の乱れを憂いておられ」
「それでだったのですか」
「そうです」
その通りだというのだ。
「戦が続き民が苦しみ帝が憂いておられる」
「そうした状況をですか」
「殿も憂いておられ」
「その憂いを晴らされる為に」
「その為にだったのですか」
「そうでした」
謙信は家臣達に確かな声で答えた。
「これまでは。しかし」
「これからはですな」
「天下が泰平になるからこそ」
「殿の憂いも消えられ」
「それで」
「はい」
その通りだというのだ。
「これからはです」
「酒をあまり飲まれずに」
「天下の泰平を喜ばれ」
「そのうえで、ですか」
「政に励まれるのですね」
「そうなります」
こう言うのだった。
「これからのわたくしは」
「憂いがない為」
「それで、ですか」
「お酒を飲まれず」
「天下をなのですね」
「そうです、天下に喜びが満ちれば」
謙信は実際にその手に杯を持っていなかった、今は。そのうえで穏やかな表情になりそのうえで話すのだった。
「わたくしもです」
「酒を飲まれずに」
「そのままですか」
「楽しまれますか」
「そうです、民達の笑顔こそ」
まさにそれこそが、というのだ。
「わたくしを最も喜ばしてくれるものです、しかし」
「この宴ではですか」
「飲まれますか」
「それでも好きなものは好きなのです」
やはり謙信は無類の酒好きだ、このことは自分も否定しない。そもそも謙信が嘘を言うことは決してないことだ。
「今は飲みましょう」
「仕方ありませぬな、では」
「今は」
「存分に飲みます」
こう言ってだ、そしてだった。
謙信はこの時の宴を楽しむことにしたのだった、そうしたことを話して。
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