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第一章

                            忍 
 影に生き影に死ぬ。
 忍はそうした存在だと。常に教えられてきた。
 彼、服部半蔵もまた同じだ。幼い頃から忍術と共にこのことを叩き込まれてきた。それで彼は徳川家康に仕えるようになってからもだ。
 影に徹していた。家康が呼ぶとだ。
 何処からともなく姿を現す。まさに影の如く。
 そうして命を受け姿を消す。それが彼だった。
 その彼をだ。周囲はこう言うのだった。
「頼りになるな」
「やはりいざという時はあの男か」
「忍の者、何かとな」
「頼りになる」
 このことが言われるのだった。そしてだ。
 実際に彼は何かあると動き家康を助けてきた。それはこの時もだ。
 また家康に呼ばれだ。彼にこんなことを言われたのだった。
「裏切り者ですか」
「左様、どうやら武田と手を結んでじゃ」
 それでだとだ。彼の前に座す家康は真剣な顔で半蔵に話すのだった。
「そのうえでじゃ」
「謀反を企んでいるのですね」
「誰なのかわからん」
 その謀反を企てている者が誰か、それはまだわかっていないというのだ。
「しかしこのまま放っておいてはじゃ」
「はい、厄介なことになります」
「それでじゃ。その者を探し出しじゃ」
「そしてですね」
「密かに消してくれるか」
 そうせよというのである。
「闇にな」
「わかりました。それでは」
「相手が誰であろうともじゃ」
 家康は半蔵もこうも言った。
「構わん。葬ってくれ」
「誰でもですか」
「ここで謀反が起こればじゃ」
「それだけ我が家が弱まります」
「武田はそれを狙っておるのじゃ」
 謀反が上手にいくとは武田も思っていないというのだ。武田の狙いは謀反で兵が分かれ互いに争い徳川が弱まることだ。それが狙いなのだ。
 それがわかっているからこそだ。家康は半蔵に話すのだった。
「ならばじゃ」
「密かにですね」
「兵を動かされてからでは遅い」
 まさにそれでだというのだ。
「だからじゃ。よいな」
「わかりました」
 こうして家康の命を受けてだ。
 半蔵は早速家の者達を調べた。徳川の家臣達をだ。
 その結果まずは家康の一門衆にはそうした話はなかった。
「ふむ。竹千代達にはか」
「そうした話は一切ありませんでした」
 家康の嫡男信康のことだ。彼は自分の幼名を嫡男に授けたのだ。
「弟君の方々にもです」
「ふむ。身内は大丈夫じゃったか」
「そして主立った家臣の方々もです」
 徳川四天王や神将と呼ばれている家康が誇る家臣達だ。彼等は有能なだけでなくその忠誠心もかなりのものとして知られている。
 その彼等もだ。大丈夫だというのだ。
「しかし。それでもです」
「謀反を企てている者はおるか」

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