SS:病、薬、そして異邦人
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ふう、と煙を吹きだした男性は、昨日のことを思い出してため息をついた。
「まったく大騒ぎしてるから何事かと思って調べてれば……水源に魔物の死体が沈んでたとはな。病気の原因はそいつの血液に含まれる毒で、住民のアレは中毒症状。熱を出して脱水症状に陥る人を助けるには当然ながら水を飲ませるし、体力増強と弱った位の事を考えると水気の多いスープなんかが食べさせるには適切だ。そしてその水は汚染されてました、と……そりゃ治療しても治らんわなぁ」
薬を飲むための水の方が原因なのだから、症状が収まる訳がない。
商業ギルドの一員として薬を売り渡っていた彼は、コマーヌスの住民たちの症状や血液を調べて直ぐに症状の原因に思い至った。まだ元気のある連中に言葉に言葉を尽くして協力を仰ぎ、原因となってる水場を丹念に調べて原因を取り除くことと解毒に必要な薬草類を確保してくることなどを頼んで自分はさっさと治療薬作りの準備を始めさせてもらっていた。
コマーヌスの住民たちは突然現れた余所者に訝しがったが、「俺は薬師だ」と名乗ると手のひらを反して俺の言う事を信じてくれた。
"よく知らないのだが、この世界では薬師という存在は非常に希少らしい"。
原因はマギムとか言う種族の医療文化独占にあり、そのために市場に出回る薬は量が少なく値段も高額。医療知識も民間療法レベルを超えるものは全てマギムが独占してるんだそうだ。領主に至っては「どんな報酬も払うから領民を助けてほしい」と頭まで下げられ、非常に居心地が悪かった。そんなに偉い身分になったつもりはないのだが。
「問題は水源に魔物の死体を……しかも長い時間をかけてゆっくりと毒素が染み出すように加工までして沈めた大馬鹿野郎はどこの誰だっつう話なんだが、まぁそっちは俺の専門でもないし。犯人捜しは回復した自警団の皆様方に任せますかね?」
それにしても寝心地のいいベッドだった。流石領主の客室ともなれば上等なものを使っている。
こんな所を宿代わりに出来るなんてラッキーだ。しかも治療に必要な薬は原料を全て町の人間に取ってきてもらっているからコストはゼロ。肉体労働だけで高級宿に泊まれるんなら安いものである。
「まぁ、調合の知識なんかを"薬師じゃない"俺が知ってるのはコイツのおかげなんだけどね」
そういいながら、アームカバーにひっかけてあった薄い板のようなものを指で弄ぶ。
彼は別に薬師ではない。薬師として認められるには国家資格が必要だが、彼はそもそも資格を得るための身分が存在しなかった。
この世界には母国戸籍と組織戸籍があり、組織戸籍は偽造が容易な上に罰則が少ない。つまり孤児や訳ありで身分を隠している人間が戸籍を得ようとすると組織戸籍となる。その代りに組織戸籍は法的信頼性が弱いので、国家資格を取
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