暁 〜小説投稿サイト〜
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SS:病、薬、そして異邦人
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う力も知恵もなく、自慢の剣も病には届かない。弦月はいずれ新月となり、光は命の瞬きと共に闇に飲まれる。
 ふとベッドの横を見ると、外は夜になっていた。まるでアズキの体調と呼応するように陰を増していく月を見て、不意に「あれが全て欠ける時に私は死ぬ」と思った。恐らく次の夜が訪れる時には、自分の命も新月となって夜空から姿を消すのだろう。そう思うと、行き場のない恐怖と悲嘆がこみ上げてきた。

「……誰か、助けてよ。お父さん、お母さぁん……!」
「お父さんでもお母さんでもないけど、君を助ける事は出来るよ。俺にはね」
「え………?」

 突然背後から掛けられた言葉に驚いて振り返ると――そこには、一人の男がいた。
 ケレビムの民ではない。象徴である尻尾と耳が違う。あれはマギムという基本種族のものだ。
 しわくちゃの白衣にとても珍しい黒髪。まだ若いと思われるその表情には深い疲労と、達成感が浮かんでいた。
 何者か、と問いただすよりも一瞬早く、目の前にカップが差し出された。中には淡緑色の液体が並々注がれ、ハーブのような独特の香りが立ち上っている。

「治療薬。作ってみたんだけど……飲むかい?ただしシロップ代わりになるものが手に入らなかったんで死ぬほど苦いけど」
「苦いのを我慢すれば……助かるのか?私も、みんなも……?」
「人数分そろえるのには骨が折れたけどね。おかげで肩と腰が……アタタ。ま、それは置いておいて――君、苦いの大丈夫?」

 男が何者か、薬らしきものが本物かは判別がつかない。
 だが、目の前のどこか飄々とした男を信用せずにいても、結局死ぬことに変わりはない。
 本当は苦いものは嫌いだったが、アズキは意を決してそのカップを受け取った。

 死ぬほど苦くてそっちで死ぬかと思ったが、次の日の夜には目の下の隈が全て取れていた。



 = =



 翌日のコマーヌス。地方領主の家の客室で寝ていた一人の男が目を覚ました。

「……ん、朝か?くあぁぁ………」

 伸びをすると体がバキバキと音をたて、僅かながら凝り固まった筋肉がほぐされる。
 昨日のハードワークが堪えた。だが、薬を飲ませた患者の様子を確認しに行かねばならない。面倒くさいけどしないのも不義理か、とごちた男は部屋の窓を開け放つ。
 朝の心地よいそよ風と共に、食欲を誘う香りが舞い込んできた。目を凝らすと病人を寝かせていた宿の前で炊き出しが行われているようだった。明るい喧噪を眺め、どうやら様子を見るまでもないようだと考え直した男はどっかりと部屋の椅子に座り込んだ。

 手荷物の中からキセルを取出し、たばこ――はないので代価品の調合ハーブを詰めて火をつける。
 口の中に清涼感のある煙が充満し、ほのかに甘くて刺激のある香りが頭をスッキリさせる。
 
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