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白樺
1部分:第一章
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第一章

                          白華
 大奥もだ。その中は。
 それぞれかなり忙しい。特に女中達はだ。
 昼も夜も右に左にだ。動き回っている。その中でだ。
 若い女中、この女中の名をおなまという。ぱっちりとした大きな目の背の高い娘でありその背の高さから大奥でも目立つ存在であった。
 そのおなまにだ。将軍の正室がある日声をかけてきた。
「若し」
「あっ、これは奥方様」
 将軍の正室となればだ。大奥では絶対者に等しい。その彼女に声をかけられてだ。
 おなまは目を丸くさせてだ。こう言うのだった。
「私、何か不始末を」
「いえ、そうではなくて」
「違いますか」
 不始末を咎められてのことではないとわかってだ。おなまはだ。
 まずは安堵した顔になった。その彼女にだ。
 奥方はだ。今度はこう尋ねてきたのだ。
「そなた家はお花だったわね」
「はい、そうです」
 その通りだとだ。おなまはすぐに答えた。彼女の家は江戸でも有名な華道の家元なのだ。そこの次女に生まれているのだ。上に兄と姉がいる。 
 そのことは大奥に入る前に既に調べられてそれで大奥に入っているのだ。
 当然ながら将軍の正室である奥方もこのことは知っている。それでお互いに尋ねて答えるのだった。
 そしてだ。奥方はだ。おなまにあらためて言ってきた。
「それならお花のことは詳しいわね」
「まあ一応は」
「それなら」
 こう言ってだ。それからだ。
 奥方はだ。まずはおなまを自分の部屋に導き入れた。それからだ。
 その畳の、周りに化粧道具や鏡、そうしたものが置いてある部屋の中でだ。奥方はこうおなまに対して尋ねてきたのだった。周りには奥方付きの女中達が控えている。
 その中でだ。奥方はおなまに対して言ってきた。
「実は今」
「今といいますと?」
「上様がお花はどれがいいかと仰っているのよ」
「お花をですか」
「上様はお花が大層お好きで」
 この時代の将軍は徳川家重である。喋ることに問題があると言われており政の場では常に側用人を通じて話をしている。そしてそれと共にだ。
 草花を愛することでも知られている。その家重がだというのだ。
「今度大奥でもお花を飾ることになったけれど」
「そのお花をですか」
「果たしてどのお花がよいか」
 奥方は悩む顔でおなまに話す。
「そのことがどうしてもわからなくて」
「そうしてなのですな」
「そう、それで花に詳しいそなたに相談したのよ」
 それでだというのだ。
「この大奥を飾るお花は何がいいか」
「大奥をですか」
「果たしてどのお花がいいかしら」
 眉を顰めさせてだ。奥方はまたおなまに尋ねた。
「いい知恵はあるかしら」
「そうですね。まずはです」
「まずは?」

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