後日談の幕開け
四 幕開け
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登りの階段。私達が登って来た地下からの階段、その真横にあった閉じ切った扉……来るときには、丁度死角、気付く事なく離れた扉を、突進、その勢いのまま突き破り。アリスを咥えたまま消えていく影を、今すぐにでも追いたいと思えど、彼女。未だ、身体から溢れた肉蛇の中心……恐らく、彼女の意思を無視して蠢くそれ等を、なんとか、引き剥がそうと。引き千切り、引き千切り……よろめく姿、ふらつく姿、赤い粘菌、落ちた蛇。繰り返し、繰り返し、繰り返す彼女を。放っておくことなんて、出来るはずもなく。
マトの元へと駆け寄り。彼女の体、黒い蟲、蛇……彼女から生えた無数の触手。牙を持ったそれは、口を開くそれは。近付く私に対しても威嚇し。口を開いたそれの首、切り裂きながらも掴み、握る度に埋まり、切り潰しながら引き千切る。彼女の腕、それは。赤く、赤く、血に……粘菌に汚れ、染まっていて。
やはり、この肉蛇は。彼女の中に巣を作ったわけではなく。彼女の体の一部なのだと理解する。酷く悪趣味で、惨たらしい改造。無理やりに変異させられた、植え付けられたその姿は、まるで、まるで。
怪物のよう、だと。否応無しにそう思わせて。彼女は、少女、少女だと言うのに。身体、弄ばれ。心も、思いも、尊厳も、何もかもを。顔も知らない誰かに。向けられた悪意の根源たる、糾弾する事も叶わない誰かに、踏み躙られていて。
「マト、マト……!」
触手、肉蛇。身は竦み、竦んでも。裂けるまで開き、牙を覗かせ息を吐くそれを、掻き分けて。噛まれ、噛まれ、痛みはなく。私が近付いても、尚、気付けない彼女の。恐怖の声を零しながら、只々、蛇を毟る彼女の手を掴んで。
「マト、やめて、大丈夫、大丈夫だから……」
何が、大丈夫なのか。自分でも分からないまま、掛ける言葉、黒い蠢き、掻き分け。その先に覗いた彼女の顔、重なる視線。彼女の目は、酷く怯え。自分の感情を押さえ付けがちの普段とは打って変わり、うろたえ、恐怖し、取り乱し。瞳、溜まった涙は、澄んだ雫は溢れて零れ、流れ落ちて。そんな、彼女の目を覗き。思わず、目を背けたくなるほどに。痛ましい姿へと変わり果てた、彼女の手。指の代わりとでも言うように埋め込まれた刃が、握る私の手を切り埋まるのを感じながら。
「マト。お願い、落ち着いて聞いて。その蛇は、あなたに植え付けられている。認めたくなんて、ないだろうけれど。あなたの」
「違うっ、私、私は、こんな、こんな……」
また。肉蛇、掴み、抉り取ろうとする彼女の手を。更に強く握り締めて。
「落ち着いて、お願い。これ以上、自分を傷付けないで……お願い」
掛けるべき言葉が見つからず。けれど、何か、何か。伝えなければ。心が壊れてしまうのでは無いかと。それが、怖くて。
そんな。恐怖からか。焦りからか。私は。
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