後日談の幕開け
四 幕開け
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抱きしめたまま。オートマトンがそう呟く。半ば、放心したように。只々、彼女を抱きながら。そう、小さく呟いて。
「……分からない。けれど……私は、許すことが出来ない」
オートマトンは、黙したまま。
「私たちを蘇らせた誰かを……弄んだ誰かを。私は」
ソロリティの紡ぐ言葉は。静かな廃墟、静かな街と同じ。酷く静かで落ち着いた――しかし。
「許すことが、出来ない」
明確な。強い憎悪。恨み、怒り、怨嗟を孕んでいて。
「……そう。私は……分からない。何をするべきなのか。アリスは……私たちに、どう在って欲しいのか」
でも、と。彼女は、言葉を繋いで。
「あなたがそうしたいなら。一緒についていきたい。私たちが離れ離れになることは、きっと。アリスも望んでいないだろうから」
赤い空。錆びてしまったような空。遠く浮かぶ黄色い雲。沈みゆく日、赤みを増す日。徐々に暗くなりゆく空に見下ろされながら、廃墟。言葉を響かせて。
「アリスの体は、私が貰うよ。こんなところに、置いていきたくなんてない。ずっと一緒に……何処まででも、連れて行きたい」
オートマトンの言葉。その意味を。ソロリティは、理解して。
「……分かった……いいよ。終わるまで待ってる」
アリスの体。誰にも渡したくないのは……こんな世界に埋めたくなんてないのは。彼女も同じで。
「ありがとう……」
言葉を紡ぎ。紡いだ、彼女のその口が。
裂けていく。裂けていく。覗いた歯は、尖ったそれは。赤い空から降りた光に影を作ったその牙は。グールのそれを彷彿とさせ。そんな傷も、彼女の再生力を以ってすれば。直ぐに塞がる一時の傷で。
アリスの体を飲み込む姿。抱いたままに牙を突きたて、けれど、優しく、悲しそうに。言葉の一つ発することなく食らう姿を。赤い涙を……血の涙を流す姿を目に、焼きつけて。
『――東へ向かえ。そこで、お前達を待っている』
ノイズ交じりに声が届く。ソロリティの耳に備え付けられたそれが、何処からか発せられた言葉、彼女へと向けた言葉を拾って響く。
「……勝手ばかり。すぐにでも行くわ。……絶対に」
許さないから、と。言葉、零し。オートマトンがアリスの体を飲み込んでいく姿、赤い世界、廃墟の群れ。破壊しつくされた屋上で。
彼女たちの後日談は。記憶を奪われ。体を弄ばれ。姉妹までもを奪われた、彼女たちの後日談は。
燃えるように紅く滲んだ。夕日に照らされる中で、幕を開けたのだった。
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