後日談の幕開け
四 幕開け
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だろう、と。頭に過ぎった光景を、舌打ち、頭を振って掻き消して。
今は。姉妹たちへと迫る敵を払って。彼女たちの正気を取り戻さなければ。そう、自身を奮い立たせれば。
視界の端。オートマトンの爪も。自身の銃弾も。受けることなくその場で軋み、音を立て、無理やりに折りたたまれるように。押しつぶされていくヘビトンボを、ソロリティは見て。
それが。アリスのESPによるものに他ならなくて。一度の攻撃も受けていない昆虫兵器、硬い外骨格も、強靭な顎も関係なく。否応無しに行われる破壊は、いつ。自分たちへと――ソロリティと、オートマトンへ向かっても、おかしくは無く。奮い立たせたばかりの自身の心、背筋、冷たい水が流れるようなその感覚に、思わず震えて。
もう。手遅れなのではないか。例え、虫の群れからアリスを救い出したとしても。もう、彼女は。アリスは戻って来ないのではないか、と。ソロリティは。
背後、受けた衝撃、左手。食い込んだ顎。痛みの無い傷み、間近で見た虫の目、開いた顎、それに。思わず、彼女は。小さな悲鳴、共に。力の限り振り払って。
零れ落ちた粘菌。小型のヘビトンボの群れは、遂に。飢えに駆られ、姉妹たちの立つ屋上、彼女たちの元へと降りて来て。無数の虫たち、遠く距離を置いた大型のヘビトンボ。オートマトンの振る爪は小型のそれを数匹切り落とし。緑色の体、体液、数多の目、羽音。肉を啄ばむ虫の群れ。そんな、中で。
アリスは。少女は。狂気に満たされ、正気を失いながらも。自身へと群がるそれ等を恐れて。身を捩り、体を守ろうと身を縮込ませ――恐怖に呻く、呻く口から。
零れ落ちたのは。姉妹の名で。
「アリス……?」
「リ、ティ……マト……」
正気を取り戻したわけではない。狂気を振り払ったわけではない。しかし。
肉を抉り、食らう虫、死を。感じもしない痛みを恐れた彼女は。
朧な意識の中で。姉妹を頼って。
「アリス、アリス……っ!」
ソロリティが飛び交う虫を掻き分けてアリスの元へと駆け寄っていく。二人の声に気付いたオートマトンが虫を切り裂き、叩き落とし、アリスの元へと近付いていく。宙に浮き、体を震わせ、狂気の中で助けを求める、アリスの元へと。辿り着いた彼女は。ソロリティは。
その体を。腕、体、走る傷、制御出来ないESPに傷つけられて。傷つけられながらも。
強く抱きしめ。彼女へと群がるヘビトンボから身を守り。そんな彼女たちを、オートマトンは。虫を払い、抉り切り裂き守ろうとして。
「アリス、大丈夫、ここにいるわ。二人とも、リティも、マトも居る。大丈夫」
返す言葉は、うわ言のそれで。しかし、確かに。羽音に埋もれそうになるその音、耳を澄まして、掬い上げれば。
彼女たちの名前。ソロリティと、マトの名前
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