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或る短かな後日談
後日談の幕開け
四 幕開け
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 私は。

「……アリス、が……」

 彼女の目が。湛えた涙、その奥で。今までとは異なった不安の色。恐怖を映して。
 それは。恐らく、禁じ手。きっと、彼女にとって、とても狡い手、言葉を。私は投げた。投げてしまった。

「アリス……アリス、は。あの、怪物は……」

 不安気に辺りを見回し。アリスはどうしたのかと問う、彼女。私は、彼女の心が癒える前に。壊れかけの心、更に追い詰める言葉。彼女の抱えた恐怖を、不安を、狂気を。先送りにさせる言葉を投げてしまったのだと。
 後悔した時には、遅く。彼女は、手首を掴んだ私の手では、抑えきれない程に強い力で私の両肩、手の平で抑え。僅かに埋まる爪、絡み付き締め付ける黒い肉蛇。鬼気迫る表情、力。無数の蛇の蠢く音。私の目に映るのは、捕食者の姿、私達、死人の天敵に対する恐怖。この場で呑まれ、取り込まれ。欠片も残さず消えてしまうのでは無いか、と。伸ばしかけた手、伸ばす前に、何をしているのかと心が冷え。大切な仲間、共に目覚めた姉妹を前にして……思わず、銃へ。手を伸ばそうとしてしまったことに、罪悪感が湧き上がって。

「マ、ト……」
「アリス、アリスは。何処に行ったの」

 焦りに駆られた。狂気に駆られた。彼女の言葉、もう。後戻りする事など出来ない。彼女は心に傷を負ったまま。アリスの元へ―――

「―――あの、怪物に連れて行かれた。上の階よ、すぐに」
「すぐに、すぐに追わないと」

 絡み付く肉蛇、解き。私の肩を放し、上の階へと続く階段、通路の先へと視線を向けて。彼女は、私に付けた傷も。自分の姿、赤く染まった姿にも、気付いてはおらず。消えた姿を探し求めて、獣の足、粘菌の滴り。赤い水溜りを残して、ふらつきながらも駆け出して。

「……私も……行かない、と……」

 マトも、アリスも、遠く、遠く。離れていく。壊れていくのを。何処か、心、胸の中。穴の空いたように、虚に。壊されたくない、壊れていく。どうしようもないのか。私は、何も出来ないのか、と。
 耳に備えた機械。鳴り出した音、雑音。それに、気を裂くことも。肩から溢れ、腕を伝って垂れた粘菌。払う事もせず。

 彼女の残した。赤い跡を、辿った。





 ◆◆◆◆◆◆





 彼女は、オートマトンは今、この状況を。何も理解できないまま。廊下を駆け、階段を登り、また、駆けて。
 身体の内側、這い回る蛇。そして、それは、彼女の胸に湧き上がる――食欲。その対象はあろうことか、アンデッド。彼女たちの前に群がる奴等へと向けられた。食べたいと思う、思ってしまった。その飢え、抱いた自分自身に対する嫌悪感が付き纏い。
 気持ち悪い、気持ち悪い、と。思わず、言葉を吐き出し。吐き出したところで、何も。変わりなどせずに。それを嘆く
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