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白犬と黒猫
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第二章

 その前にだ。それがいたのだった。
「猫・・・・・・」
「ああ、黒猫ですね」
「いたんですね」
 隊士達もその猫を見て言う。
「何か毛並みがいいですけれど」
「誰かの飼い猫でしょうか」
「どうでしょうか」
 ここでまた言う沖田だった。しかしだ。
 その顔はだ。どうしたものかというと。
 暗かった。見てはいけないものを見た顔だった。
 その顔で黒猫を見てだ。それで言う言葉は。
「猫は」
「猫は?」
「猫はといいますと」
「黒猫、やはり」
 母の言葉を思い出していた。その母の言葉を。
「魂を持って行きますか」
「魂?」
「魂といいますと」
「いえ、何でもありません」
 自分で言葉を遮ってだ。そうしてだった。
 彼等にだ。こう話すのだった。
「では今は」
「はい、後は会津藩にお話してですね」
「このことは」
「そこまでいかないでしょう」
 所詮ゴロツキを斬っただけだというのだ。
「それではです」
「隊に戻りますか」
「副長のところに」
「そうしましょう」
 ゴロツキを斬ったことはどうでもよかった。しかしだった。
 沖田は黒猫を見ずにいられなかった。どうしてもだ。
 そしてその黒猫にだ。不吉なものを感じずにはいられなかったのだ。
 その彼がある夜近藤、そして土方と飲んでいた。その場でだ。
 近藤がだ。こう言うのだった。
「一つ面白い話を聞いた」
「面白い話とは?」
 土方がすぐに彼に問い返した。
「一体何でしょうか」
「うむ、犬だ」
 犬がだ。どうかというのだ。
「白犬だが」
「白犬なら何処にでもいますが」
「いやいや、違うのだ」
「ではどう違うというのでしょうか」
「人が死ぬ時があるな」
 彼等にとってはそれは背中合わせのことだった。人を斬るのを生業としている様な彼等にはだ。
「その時に白犬が出ることがあるらしい」
「そうなのですか」
「そしてだ」
 近藤は一杯やりながらだ。土方、そして共にいる沖田に話した。
「その白犬を見るとだ」
「何かいいことがあるのでしょうか」
「安らかに死ねるという」
 そうなるというのである。
「もっともそこから何処に行くかはわからん」
「極楽か地獄かは」
「それはわからん。しかしだ」
「安らかに死ねるというのですね」
「そう聞いたのだ」
「成程。それはおそらく」
 土方は近藤はその話を誰から聞いたのか。推察して言ってみせた。
「斉藤君からですな」
「ほう、わかるか」
「何となくですが」
 わかったというのだ。彼からの話だと。
「どうもそういう気がしましたので」
「そうだ。斉藤君だ」
 斉藤一のことだ。新撰組の要人の一人、ここにはいないが沖田達と並ぶだけの者だ。

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