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ソードアート・オンライン‐黒の幻影‐
第2章 夜霧のラプソディ  2022/11
13話 闇に沈む森
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ですよね?」
「なに?」
「ひぃ!?………じ、自己紹介、ご迷惑でしたか?助けて頂いたみたいですし、名乗らずにいるのも失礼かと思って………」


 まさかエルフからコンタクトをとってくるとは思わなかった。逃げられるよりかはマシだと思うべきか、それさえも多過ぎる疑問点もあって判断しかねる。少なくとも、いきなり矢を放たれるといった事態にはならないみたいだが。

――――しかし、自己紹介か。

 思えば、これまで俺のプレイヤーネームを自己紹介の時点で認識してくれたプレイヤーはどれだけいただろうか。いや、どれだけという表現はおこがましいか。俺と親交のあるプレイヤーなどPTを組んだキリトに寝袋女(アスナ)、情報屋であるアルゴくらいのもの。昨日救出した女性プレイヤーだけのPTは互いに名前を知らぬままに別れたから別として、その全員が俺の事を実名で認識してしまって、例えプレイヤーネームを知ってもらった後でも実名が使われているのが現状だ。そして、その全てにおいて原因はヒヨリにある。アイツが全てを台無しにしてくれた。その結果として、MMOを始めとするネット社会のあらゆる場に於いて禁忌とされる《実名晒し》の憂き目にあった。ヒヨリ自体は気にしてすらいないかも知れない。ましてや生死を賭けたこの世界では些事として気にも留められないかも知れない。しかし、仮に悪意ある誰かがSAO生還後に俺の名前を拡散するかもしれない。そして、個人情報がネット上に集積されることとならないとも限らない。

 しかし、今は当の諸悪の根源もベッドの中だ。このエルフにまで実名を知られる事態は確実に回避できる。いや、彼女を反撃の狼煙に、この自己紹介をターニングポイントに、俺の実名の蔓延に終止符を打つ。これは、その第一章だ。



「俺はスレ………」

「?」

「………いや、リンだ。宜しくな」

「リンさんっておっしゃるんですね。なんだか可愛らしい名前です」


――――だが、俺は諦めた。

 既に手遅れであったことを、道半ばで悟ってしまったのだ。人の口には戸は建たない。何れにせよ、遅かれ早かれ知られた実名は広まる運命にある事を。そして、情報屋である《鼠》のアルゴにも知られてしまっている事を。そもそもモンスター一匹に知ってもらったところで何が変わるというのか。戦う前から負けていた。何やら不本意な褒められ方をした気もするが、気にする余裕さえない。もう諦めよう………


「………わ、私の番ですね………人族の方とお話ししたのも初めてだったので、なんだか緊張しますけど………」


 卑屈になりかけた精神状態を気合で立て直し、地面にほぼ直角に落ちていた視線を何とかエルフに向ける。数度の深呼吸を経て、右の拳を左胸に当てて一礼される。エルフにおける敬礼のようなものだ
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