第2章 夜霧のラプソディ 2022/11
13話 闇に沈む森
[4/7]
[8]前話 [1]次 [9]前 最後 最初 [2]次話
……ぁ、くっ………!?」
黒エルフの弓兵は苦痛に耐えるように額を抑え、荒い息を吐き、ついに膝から崩れる。観察を切り上げて駆け寄ると、怯えたような視線を僅かな時間だけ向けられるも、糸が切れたように気を失ってしまった。このままHPが全損して消滅してしまうのでは、という危惧も杞憂に過ぎたとはいえ、このまま放置すれば狼や蜘蛛に襲われないとも限らない。エルフは敵対する陣営以外にも野生生物系のモンスターとも敵対関係――――蜘蛛に至ってはキャンペーン・クエストのネタになるレベル――――にある。
いつぞやのキリトに倣って、ストレージで常時待機している寝袋に納めて――――エルフを寝袋に入れたのは恐らく俺が初めてか――――肩に担ぐ。《無音動作》の効果は残り五十分。これほど全ての目的に対する最適解に近い収穫を得た以上、これ以上の探索に意味はないだろう。しかし、このまま《ズムフト》まで運び込めば、衛兵NPCが攻撃対象と認識する可能性が否定できない。一応は寝袋に包んでいるので《収納された重量物》という扱いの筈だが、中身が前代未聞のモンスターであることから、判断が付かない。流石にこればかりは一か八かの博打に出ることは出来ず、やむなく現在地と主街区の中継に位置する最寄りの安全地帯を目指すこととする。
窪地を抜け、茂みが疎らになり、乱立する古樹の群を抜けて歩くこと三十分。突如として森が開け、テニスコートにして二面ほどに及ぶ白い花の群生地――――目的地たる安全地帯が姿を現す。夜闇に鎖された《迷い霧の森》の中で、うっすらと発光する花が存在するこの一帯だけが幽かに明るい。いつの間にか視界に色が戻っていて、光で視界が真っ白になるような事態が回避できたのは少しだけ有り難かった。そうなっては網膜に焼き付くこと請け合いだ。いくら仮想の身体とはいえ侮ることなかれ。目薬の効果が残っているうちに強い光を見て視界が潰れた経験のある立場だからこそ分かる。すごい辛い。
さて、視界の下側の《隠れ率》の数値は周囲の光を受けたことで55パーセントまで落ちてしまっていた。暗闇では隠れ率に有効に働く黒い装備だが、光源に照らされれば姿を暴かれやすくなるというのは自明の理といったところか。隠蔽スキルにおいては熟練度もさることながら、こうした外的要因によって簡単に変動してしまう。花園の中央まで移動し、担いでいたエルフを降ろす。すると、搬送中も目を覚ましそうになかったエルフが寝袋の中でもぞもぞと動き出すのが見て取れた。
「………ぅ………ぁ、え?」
ほどなくして、間の抜けた声が漏れて気怠そうに目が開かれる。光源が顔の傍にあったからだろうか、かなり眩しそうだ。それでも細くした目で周囲を確認するように視線を泳がせる。状態異常からの復帰モーションにしては、かなり細かいように見える。
[8]前話 [1]次 [9]前 最後 最初 [2]次話
※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりを挿む
[7]小説案内ページ
[0]目次に戻る
TOPに戻る
暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ
2024 肥前のポチ