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ソードアート・オンライン‐黒の幻影‐
第2章 夜霧のラプソディ  2022/11
13話 闇に沈む森
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狙撃は周知の事実から逸脱した所業だ。高い経験値とドロップ品を目当てに多くのプレイヤーが狩っているモンスターであるが故に、暗殺についての目撃証言は少なからずあってもいいようなものである。そうであるものの、アルゴから一切その点について聞かなかった。つまりは、両者の戦闘そのものが昨日まで発生しなかった、ひいてはこの両者の行動範囲が重ならなかったという事にはならないだろうか。
 ………まあ、推論は希望的観測の向きが強く、確証に至るものは何一つないが、それでも昨日の一件は確信に至るには十分。推論はあくまで推論。この捜索で見つからなければ他の手段を考える事として、ここで思考を一旦横へ退ける。崖下に僅かに開けた窪地、エルフとの戦闘を行ったポイントだ。

 マップデータを開き、射出された矢の射線上――あるいは、その延長線上――の一点を確認する。現在地から北西に進んだ辺りだが、その地点には大した意味はない。矢の走ったその線上を辿って痕跡を探る他ないだろう。かなり地道な作業が予想されるものの、それでもこうして足を運んだのはアルゴへの義理だけではない。隠し要素の魅力に憑りつかれた《やり込み派》としての本能が、俺に本腰の探索をさせていた。それに足るだけの興味が、その狙撃手にはある。少々罰当たりな心向きかも知れないが、目的が共有されているので良しとする。

 しかし、あまり過度な期待は、往々にしてその結果によって無為に精神を消耗させる。隠しクエストや隠しダンジョンの手掛かりになりそうなものにも意識的に興味を分散しつつ、ショートカットメニューから《無音動作(サイレントムーブ)》を使用する。視界に表示されている自身のHPの右端にメガホンと×を合わせたようなアイコンが発生し、俺の動作からは物音一つたりとも鳴らなくなる。《拡張機能(Mod)》によるシステム的保護を享けつつ、茂みに潜り込む。当たった枝葉が不自然なほどに無音のまま(しな)り、弾かれて戻ってゆく。端から見れば、それこそ不自然な現象ではあるものの、この状態でどれほど茂みを揺らしてみようが、プレイヤーを認識しない限りはモンスターは襲ってはこない。聴覚によって索敵を行う種のものに至っては横を素通り出来てしまう。よほど挑戦的な真似さえしなければ、モンスターに気付かれるという事態にはなり得ない。モンスターという枠組みに含まれる、例の狙撃手――――あるいはレアエルフか、同一の者という可能性もある――――も恐らく同様であるはずだ。仮に視認されようとも、《隠れ率》は《無音動作》のオマケ効果でブーストし、今や90パーセント前後を維持している。モンスターはおろかプレイヤーさえも欺きかねない、かなり高い数値だ。戦闘の心配は無いと見て良いだろう。無用な悪目立ちさえしなければ、探索に専念出来る。必ずしも望んだ結果に帰結するとは限らない
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