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とある幻術使いの物語
三話:誓い
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ろうと思い席を立ったところで黒歌に呼び止められてしまった。

「トーヤ、ちょっと待つにゃ」
「なんだ?」
「その……守るって言ってくれて嬉しかったにゃ。だから、これはそのお礼」

 珍しくどこか恥ずかしげにもじもじとしたかと思うと黒歌が俺に顔を近づけてくる。
 そして、頬に感じる暖かくて柔らかな感触。
 何が起きたか分からずに呆けていると顔を赤くした黒歌が恥ずかしさを押し隠すように大きな声で告げて来た。

「わ、私の初めてのキスなんだからもっと喜びなさいよ!」

 その台詞で自分が頬にキスをされたことを理解する。
 理解したと同時に急に恥ずかしくなり首から顔にかけてまでがまるでタコのように赤くなっているのを自覚する。
 何かを言おうとするが口が上手く動かずにパクパクと金魚のように開けては閉める事しか出来ない。
 俺のそんな様子に満足がいったのか、黒歌は顔が赤いままではあるが悪戯っぽく笑う。

「いつまでも悲しんでられない。また明日から頑張るにゃ」
「……黒歌」
「それじゃ、また明日ね」

 最後に少しだけ大人っぽくなった顔でそれだけ言い残して黒歌は白音の元に消えていった。
 一人取り残された俺は頬に残った熱を確かめるように触れながらフラフラと歩き出すのだった。
 




 その後、どうやって家に帰ったのかも分からないが、とにかく俺は家に辿り着いていた。
 人が死んだ後に不謹慎だとは思うけど晩御飯を食べている間もボーっとしていた。
 父さんも何か言いたそうにこっちを見ていたけど結局何も言ってこなかった。多分、何かがあったのは察していたんだろうな……。
 まあ、すぐに俺は強くならなければならないことを思い出して思考を覚醒させる。
 思考が覚醒してからは俺の行動は早かった。父さんに幻術以外にも戦いの修行を付けて欲しいと頼み込んだ。
 父さんは母さんとお揃いで付けていたという銀色のペンダントをいじりながら少しの間考えていたが、待っていなさいという言葉と共に家の奥へと消えて、中ぐらいの箱を持って戻って来た。

「父さん、それは?」
「母さんが使っていたナイフだ」
「母さんが……」

 そう言って箱の中から取り出されたのはシンプルな装飾の施された一本のナイフだった。
 これを使って修行をするのかと思ったがどうやら違うようだ。
 父さんが言うには母さんも悪魔祓い(エクソシスト)で、ナイフを使った戦闘を得意としていたらしい。これはそんな母さんの遺品にあたるものらしい。
 当然、遺品なので数は無い。だから、これは切り札に持っておけと言われた。
 ただ、俺に教えるのはナイフを使った戦闘と言うのは間違いがないみたいだ。

「筋力がない子どものお前には下手な剣よりもこっちの方がいいだろう」
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