§66 腐りきった果実の果て
[1/4]
[8]前話 [1]次 最後 [2]次話
「――――ん?」
散華し、空に舞う女神を見送る黎斗に違和感が走る。些細な、本当に些細な、だけど見過ごしたら大変なことになるような。
「お義兄様、お見事でございます。で、その……」
「いやー、やっぱり黎斗強いね。どう? 一戦やんない? ……って、右手が壊死してるんじゃ挑む意味ないか。っていうかなんでボロ布纏ってるの?」
言いにくそうな羅濠教主とあっさりそれを指摘してくるドニ。二人のささやかな疑問、それは黎斗がシーツのようなもの一枚しか羽織っていないという現状だろう。全裸でシーツにくるまって、まつろわぬ神と戦うものなどおそらく黎斗だけだろう。
「……そいやアテナからはちゃんと隠せてたよな?」
何がとは言わないが。無事に隠せていたか確証がないけど死人に口無し、今では幽世の”彼”の館に行くくらいでしか真偽を判別すること叶わない。そこまでして確認したいような事柄じゃないし別にいいか、とあっさり流す。
「まいっか。……権能回復と同時に呪力回復したからさ、身長戻したのよ。んで、服が破けると思ったからシーツで代用を」
倉庫から取り出せる服は基本的に”プレミア”ものなので荒事で着たくはないのだ。帝国海軍の一張羅とか、原住民族の腰蓑とか、騎士団の制服とかその他もろもろ、今の時代では入手に苦労する品物ばっかりで、仮眠用の布団にあったシーツくらいしかとっさに出せるものが無くて。
「と、まぁそんなことよりも」
とにもかくにも結末を見届けに来た(そして挑戦しに来た)二人を見やる。並外れた直感を持つ二人なら、黎斗の抱えた違和感の正体がわかるかもしれない。
「翠蓮、ドニ、感じた?」
「うん? そりゃあねぇ。滾ったよ。今すぐにでも挑みたいくらいに。まったくなんで万全の状態で戦えないんだか。うーん、羅濠の姉さま、相手してくれない?」
「黙りなさい某。望むならせめて剣だけでも私に届いてからにしなさい。私に挑戦したければ義弟を捻ってからくることです。……それにしてもお義兄様の武芸の神髄、改めて感じ入りました」
――――――何も感じ取っていない。僕の思い過ごしか?
「……ん、そっか」
違和感の正体も掴めない今、それを言語として語る術を黎斗はもたない。説明できる自信も無ければ示す証拠も無い。
「お義兄様、どうなされました?」
怪訝そうな顔の教主に
「なんでもない」
そう言って返すのみ。
「ついでに魚人野郎探すか。今ならまだ権能使えるし。いつまで使えることやら------万生よ、我が声を聴け。」
鳥に。虫に。植物に。空を漂う細菌にまでも、カイムの権能で声を伝える。
――奴を探せ。
――――奴を見つけろ。
[8]前話 [1]次 最後 [2]次話
※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりを挿む
[7]小説案内ページ
[0]目次に戻る
TOPに戻る
暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ
2024 肥前のポチ