1部分:第一章
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第一章
お目当てができて
乾隆帝はとかく美味いものに目がない。
それでだ。今日もこれでもかと己の前に置かれた山海の珍味を味わっていた。しかしだ。
皇帝は残念な顔になりだ。こう周りにいる宦官達に言った。
「美味い、しかしじゃ」
「それでもですか」
「そうじゃ。北京の味は少し飽きたかのう」
こう言ったのである。少し残念な顔になりだ。
「確かに山海の珍味が集められておるがじゃ」
「それでもですか」
「今ここにあるのは我が女真の料理」
つまり満州民族の料理だ。乾隆帝、ひいては清王朝は満州民族の国なのだ。
その満州民族の料理だからだとだ。皇帝は言うのである。
「やはり限度があるのう」
「では漢人の料理をですか」
「食してみたいというのですか」
「その通りじゃ」
まさにその通りだとだ。皇帝はその細長い、髭の薄い気品のある顔を綻ばさせて答えた。
「だからじゃ。朕は少し国を周りたい」
「そしてそのうえで」
「味わいたいのですか」
「そうじゃ。無論仕事は忘れぬ」
これは忘れていなかった。皇帝としての職務はだ。
だがそれと共にだとだ。皇帝は目を輝かせて言うのだった。
「各地を周るぞ。国のな」
「ではその都度仕事を持って来て」
「そのうえで、ですな」
「秦の始皇帝も巡幸を好んだ」
皇帝はこの国の歴史上で最も有名な人物のうちの一人を例えに出した。
「しかしそれでも仕事は忘れなかったな」
「はい、確かに」
「常に仕事はしておりました」
「決は取っておりました」
「それと同じよ。朕も皇帝ならばじゃ」
まさにだ。それならばだというのだ。
「仕事はする。それは常に持ってくるのじゃ」
「畏まりました。ではそのうえで」
「巡幸を行いましょう」
「国を巡りましょう」
「さて。どんな美味いものがあるかのう」
皇帝は食べながらもだ。今から美味いものに巡り会うことを期待していた。
そしてそのうえでだ。女真の料理も食べて楽しむのだった。
皇帝は巡幸に出た。西安も回れば開封も行った。山東に湖南もだ。南京もある。
当然そうした場所の料理を味わった。そのうえでだった。
巡幸の為の車、兵達に厳重に警護されたその車の中でだ。皇帝は宦官達にこう話していた。
「開封の鯉は噂通りじゃった」
「そして湖南も酒もですな」
「南京の蟹も」
「うむ、どれも見事じゃった」
満足している顔でだ。皇帝は宦官達に話す。
しかしだ。皇帝はここでだ。こうも言ったのである。
「だがそれでもじゃ」
「まだ満足はされていませぬか」
「左様ですか」
「これから四川も周る」
そこもだというのだ。
「そして広東じゃが」
「そのうえで、ですか」
「何処
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