踏み外した歴史編
第1話 だから共には歩めない
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貴虎は右足を引きずるように歩き、背中には高司舞を背負って、街を進んでいた。
舞との語らいでロシュオが何を見出したかは知らない。ロシュオは唐突に、金に輝くリンゴを舞に埋め込み、貴虎ともどもクラックの外――荒廃した沢芽市に追放した。
右も左もヘルヘイムの果実に侵食された街。この事態に備えるべきユグドラシルは動いている様子がない。
だが、貴虎に苦渋を噛み締めている暇はなかった。
共に追い出された舞が、呼吸を荒げ、玉のような汗を掻いて苦しげな様子を見せ始めたのだ。
貴虎は舞を背負い、銃創の完治していない足を引きずり、舞の望む行き先を目指して、歩いた。
辛うじて意識のある舞から方向を聞き、足を進める。
車があればよかったのだが、彼の車はタワーの駐車場だ。こういう非常事態にあっても、貴虎は近くの車を拝借しようなどとは思わなかった。
やがて辿り着いたのは、レンガ色のガレージだった。
「ここでいいのか?」
「はい……2階が……あたしたちの、部屋……」
貴虎は痺れてきた足を意思力で動かし、ガレージの階段を登った。
ガレージのドアを開け、(行儀が悪いが)足でドアを押さえつつ、再び舞を背負って中に入った。
「舞!?」
「あんたは……」
ガレージの中には、簡易ベッドに横たわる包帯だらけの少年と、それに付き添う少女しかいなかった。
「私は呉島貴虎。光実の兄だ」
「光実……ミッチの?」
「貴虎って……紘汰さんが言ってた、味方になってくれたっていうユグドラシルの人?」
貴虎は花のアーチを潜って階段を下りた。
「彼女の具合が思わしくない。休ませてやってくれないか。彼女が、休むならここがいいと」
「「は、はいっ」」
少年のほうが簡易ベッドから降りて、少女のものによく似たデザインのパーカーを着て、舞に場所を譲った。
貴虎はなるべく慎重に、舞を簡易ベッドに下ろした。
少女がすぐに舞を、きちんと寝かせる態勢に調整し、タオルケットをかけた。
少女は手際よく、水の張ったタライにタオルを浸して絞り、濡れタオルを舞の額に載せた。
「ひどい目に遭ったのか?」
「大丈夫だよ……ありがと、チャッキー、ペコ……」
そうは答えるが、舞はひどく汗を掻いていて、呼吸も荒い。
「貴虎さんも、ありがと……ケガしてるのに、連れて来て、くれて……」
「いいや。すまない。大したこともしてやれなくて」
せめて街中の病院が機能していれば、もっと舞が楽になれる処置を施せたかもしれないのに。
「あ!」
「な、何だ?」
「貴虎さんもケガしてるじゃないですか! 道具道具っ」
チャッキーと呼ばれた少女(おそらくチーム内での愛称だろう
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