第十二話:隕鉄の鞴『原初の炎』
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時にはミノタウロスの鋼の如き体表には、三つの斬撃痕が全くの同時に刻み込まれていた。
これこそが、剣豪・佐々木小次郎が至った剣戟の極致。
是、射殺す百頭のような神速によって斬撃が重なるように見えるのではなく、正真正銘の、全く同時の円弧を描く三つの斬撃。
正に不可避。正に魔剣。
この剣技に断てぬものはない。
「……一匹目」
崩れ落ちた闘牛を横目に、霞む目を擦る。やはり憑依投影は負担が大きい。読み込む記憶量によってその負担は異なるが、日に何度も放てるものではないようだ。
「さあ、ここからだ」
† †
「フルルルルゥゥゥヴ!?」
鍛え上げられた鋼の刃が、柔らかな肉質を容易く斬り裂く。悲鳴を上げて仰け反ったドラゴンを見て、終わりが近いことを悟った。
「チッ!」
されど侮っていい相手ではない。地を砕く腕の一振りを余裕をもって躱し、息をつく。
戦い続けて早二時間。HPはそれ程減っていないが、目に見えない疲労があった。
「終わらせる」
攻撃の反動から立ち直っていないドラゴンから更に距離を離す。最早足止めなど必要もないくらいに弱っている巨体を睨みつけ、腰を落とした。
「ハァァッ!」
十分な助走をとって繰り出されたのは刀専用最上位ソードスキル『散華』。
紅い光が尾を引き、繰り出された高速の斬撃がドラゴンの全てを刈り取った。
「…ハァ……ふぅぅ…」
断末魔を上げて消え去る巨体を一瞥して、すぐに視線を目前の玉座へと向けた。
照り輝く日の光を吸収するか如き紅。古の炎、この世の炎という存在を象徴する最高芸術。
玉座に突き刺さった捻れた真紅の大剣。
「?????待たせたな」
熱すらも感じるその大剣の柄を握り締める。その途端、胸の内に閉じ込めていた記憶が、溢れ出した。
ネロと出会った時。
パーティを組んだ時。
仲間が増えた時。
アイギスを結成した時。
初めて攻略作戦にアイギスとして参加した時。
仲間を一人喪った時。
全員の、最期の時。
「……あの時お前は、オレになら殺されてもいいと言っていたな。
その言葉のせいで、今やオレは一人ぼっちだ」
ポツリと。
瞳から流れた一滴の雫が、紅の大剣に落ちた。
「別に、恨んでなんかいないさ。
ああけど、少し狡いよな。この世界を終わらせる誓いも、護る為に戦い続ける約束も、全部破って先に逝ったんだから」
流れた雫は一滴に留まらず。懐かしい記憶が蘇る度に視界がぼやける。
「お前と抱いた願いは、一人で背負って行くには重すぎる」
オレは、お前のように生きることはできない。
己の全てを
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