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地上の楽園
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第一章

                     地上の楽園
 しきりにだ。新聞やテレビの文化人達がだ。
 海の向こうにあるその国をだ。賛美していた。
「とにかく素晴らしい国なんですよ」
「まず税金がない」
 誰もが払いたくないものだ。税金はそういうものだ。だから最初にこの言葉を聞いたり読んだりしてだ。誰もが目や耳を止めさせられた。
「それ本当か?」
「そんな国があるのか」
「何か違うな」
「ああ、夢みたいな話だよ」
 まずはここからだった。そしてだ。
 ここからもだ。彼等は吹聴した。
「医者にも誰でも只で行けるんだ」
「保険がしっかりしているからな」
「薬だってただで」
「怪我も無料で治療してもらえるんだ」
「どんな重い病気でも万全なんだ」
 そうだとだ。彼等は医療についても言うのだった。これはだ。
 重い怪我や病気に悩んでいる者達にはだ。福音の様に聞こえた。
 それでだ。夢物語を聞く顔になってだった。
「そんな国があったら」
「この苦しみから解放してもらえるんだな」
「金がかかって仕方ない」
 治療には金がかかる。それが彼等の常識だからだ。
 だが、だ。その国ではだった。
「しかも医師も看護士も凄い人達ばかりだ」
「ブラックジャックばかりいるんだ」
「人格者ばかりでな」
「病院は天国だ」
 人材についての吹聴も行われる。
 そしてそれは医療の分野だけには限らなかった。
「他の分野でも凄いぞ」
「もう天才と人格者ばかりで」
「どんな産業も一日ごとによくなっている」
「凄い発展があの国では行われているんだ」
「こんなことってないぞ」
「あの国だけだ」
「今この国は確かにいい」
 文化人達は今度は自分達の祖国を引き合いに出してきた。
「けれどそんなのすぐに終わる」
「あの国があっという間に抜かすぞ」
「だからこの国は今のうちだ」
「所詮終わる」
「これからはあの国だ」
「あの主義なんだ」
 とどのつまりはこれだった。この思想に基く吹聴だった。
 この頃あの主義はまさに絶対だった。まるで何かの宗教の如く広まりこの国においても広まっていた。とりわけ文化人達の間で。 
 その彼等がだ。吹聴し続けるのだった。あの国のことを。
「技術だって凄い」
「農業生産は爆発的に伸びている」
「もうないものはない」
「どれもが満ち足りているんだ」
「身一つでいってもやっていける」
「苦しみはないんだ」
 天国について言っているかの如きだった。
「町も村も清潔でゴミ一つない」
「あの国の首都はまるでショーウィンドウだ」
「それもこれもあの方のお陰だ」
「領袖様のお陰なんだ」
 遂にだ。この国家元首の存在が出て来た。
「あの方がしっかりしておられるからな」

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