第4章
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千切った。其の無表情にタキガワは大きく瞬きをした。
「探してたんだよ、あんたの事。」
肉厚な井上の唇が真横に裂け、真っ黒な全く光の無い瞳が一層不気味に存在した。
「青山涼子が死んでから、あんた、なぁんで、店、閉めてんの…?」
「あんた、なんで涼子の旧姓知ってんの?」
「なんでかなぁ。あんた、関わってる?」
「何に?」
「青山涼子、殺害に。」
真っ黒な瞳が煙で隠れた。其れは何方の煙なのか、風が吹いたので判らなかった。
「話、聞きてぇんだけど、タキガワの旦那。」
「関係無いけど、俺。」
「事件其のものを聞きてぇんじゃねぇんだわ。」
じゃあ、何?
井上の答えは、風の音で良く聞こえなかった。
良い天気、人が死ぬには勿体ねぇけど、見送んのには快適だな。
笑い、龍太郎を待った。
*****
何故貴方が此処で出て来たんです、と目の前に座る男に龍太郎は無表情で向いた。相変わらず人畜無害そうな顔である。
夏樹冬馬…離婚専門弁護士で、二ヶ月前の事件の重要参考人だった男。容疑は、殺人及び死体破損及び死体遺棄……とフルコースだった。
「夏樹さん、今日は何で…」
「雪村さんの事、教えようと思って。」
夏樹は人懐っこい笑顔で横に置く鞄から書類を取り出し、龍太郎に渡した。
其れは離婚調停内容だった。
此の夏樹という弁護士、雪村側の弁護士で、離婚を切り出したのは雪村凛太朗、離婚理由は青山涼子の“不貞”。
龍太郎は横に座る井上と書類読み合い、顔を合わせた。
「此処にある通り、涼子さんは去年の春に妊娠され、秋に流産されて居ます。其れが、離婚理由です。」
「青山涼子、浮気してたのか。」
「へぇ。」
書類を読み進める内に、調停に持ち越すのも馬鹿らしい雪村への軍配加減を知った。良く此れで青山涼子側が反撃しようと思った、勝てると本気で思ったのだろうか。本気なら、唯の無教養馬鹿女である。
何故に、自分の不貞が原因の離婚で、雪村から慰謝料が取れると思ったのか、全く謎である。夏樹も夏樹で、久し振りに来た大物、と離婚内容に眉間を掻いた。
「此れで反撃は無理があるよな。」
「なぁ…」
「唯の不貞なら、馬鹿女の自爆劇で終わりますが、此れ…来ちゃってますからね…」
夏樹は苦々しい顔で診断書指した。
其れは雪村凛太朗の泌尿科の検査結果で、其処には、非閉塞性無精子症、とあった。
詰まり、全く治療も無く自然妊娠する可能性がほぼゼロの症状である。医学の力無しには妊娠しない。
無精子症には二通りの症状があり、閉塞性無精子症と非閉塞性無精子症がある。
前者の閉塞性無精子症とは、精子は生産されるもの、其れがなんらかの原因で体外に排出されない状態である。詰まり此れだと、精路を確保するか、体外受精によって子供は出来る。
然し、雪村が診断された
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