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【短編集】現実だってファンタジー
R.O.M -数字喰い虫- 4/4
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ったことを。



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 可愛らしい金髪の女の子と大人のお兄さんは帰ってしまい、その部屋には自分のことを思い出せない私と、名前も知らない女の子だけが取り残された。

「………………」
「えっと………」
「……………………」
「あのー………?」
「…………………………」
「その、もしもーし!?」
「………………………………」

 何も状況が掴めないまま、みさき――そう呼ばれたから多分それが自分の名前なんだろう――は、魂が抜けたように座り込む少女を覗きこむ。少女は一切動くそぶりを見せず、ただただ虚空を眺めて呆然としている。時折何かを呟いたと思うと、また沈黙してしまう。

「あのさ。えっと、まだ名前聞いてないよね?聞いていい………ですか?」
「ッ!!」

 抜け殻のような表情が強張る。まるで、自身が知らない相手と認識されたこと自体が苦痛であるように、彼女は目を逸らした。

「………春歌」
「はるか、かぁ。それで私はみさきなんだっけ?」
「……………」

 力なく頷き、春歌はまた黙り込む。
 唯でさえ閉塞的な部屋で、しかも目の前の相手はどこまでも陰気。何があったのかはいまだに分からないが、こういう状況で黙って相手に合わせるのは、何となく性分に合わない気がした。

「私の知り合いだったの?」
「………うん」
「ひょっとして友達?」
「………うん」
「……………」
「……………」

 もどかしいまでの沈黙に身をよじりたくなる。だが、自分の事が自分で分からない以上、彼女に喋る気になって貰わないと私が何者なのかが不明なままだ。どうしたものか、と頭を悩ませるが、いまいち集中できなかった。

 なぜ頭が働かないのだろうか、と思い、ふと窓に映る自分の顔を見る。
 頬がこけている。………まさか、栄養が足りていないのか。腕を見ると爪もぼろぼろで腕が木の枝のように細い。骨に皮が張り付いている、とはいかないまでも鳥の足くらいには細い。早急に糖分を補給すべきだと本能が囁いた。
 決して単純に甘い物とかが食べたくなったのではなく、身の危険だからだ。うん。例え心は乙女でも、今は太るべきである。

「ねぇはるかちゃん。一緒にご飯食べない?なんか私ガイコツみたいにガリガリじゃん?栄養とればもうちょっと頭が回る気がするんだよね!!あとさ、なんかクレープ食べたい!聞いた話だと私、クレープ食べる約束したんでしょ!?食べに行こうよ!あ、でもなんか髪もぼさぼさなこの格好で外出るのはなぁ………家の中の物で我慢しよっと。とにかく、食べよっ!ね?」
「わたし……わたし、そんな人間じゃない。美咲と一緒にいる資格だってない、最悪の女なんだよ………?」

 見上げるその瞳は充血し、未だに涙が零れ落ちている。
 
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