巻ノ一 戦乱の中でその五
[8]前話 [2]次話
「よいな」
「それがしのですか」
「そうじゃ、わしの家臣ではなくな」
幸村自身のというのである。
「御主の家臣とせよ」
「それは何故でしょうか」
「わしには家臣がおる」
「真田家代々の」
「その者達は源三郎にも受け継がれる」
信之が真田家を継ぐからだ、そうなるのは道理だ。だが昌幸はそのうえで幸村に強い声で言うのである。
「しかし御主は違う」
「それがしは真田の家臣として兄上にお仕えするのでは」
「いや、御主はそれ以上の器じゃ」
「それがしが」
「わしの見たところ御主は天下一のもむのふになれる」
「天下一のですか」
「この上田から出て天下に名を馳せるまでにな」
そこまでの器だというのだ、幸村は。
「大名になれぬかも知れぬがもむのふとしてじゃ」
「天下にですか」
「名を馳せる」
「そうした者になれるのですか」
「そうじゃ、だからじゃ」
それ故にというのだ。
「御主はその者達を家臣としてな」
「天下にですか」
「名を馳せよ、よいな」
「父上がそう仰るのなら」
幸村は父の言葉に頷いた、そうしてだった。
すぐに上田を出て旅をする支度をはじめた、まずは彼一人で出ることになった。その時に彼の支度を手伝っている信之が言って来た。
「これより旅に出るが」
「はい、支度の手伝い有り難うございます」
「それはいい、これから長旅になるな」
「そう思いまする」
「一人でよいのだな」
信之は弟に問うた、彼の部屋で支度の手伝いをしつつ。
「それでも」
「はい、最初は一人ですが」
「家臣を見付けていきか」
「やがて一人ではなくなります故」
「だからか」
「最初は一人でも構いませぬ」
幸村は信之に毅然とした声で述べた。
「そしてです」
「さらにか」
「はい、この上田に帰り」
「戦うのじゃな」
「城に来る敵と」
「それまでに戻るな」
「そうします、出来るだけ急いで」
幸村は兄にこうも答えた。
「二年、いえ一年半で」
「うむ、まずは上杉が動くな」
信之は己の見解も述べた。
「川中島の方にな」
「そうですな、上杉家の拠点春日山から川中島は近いです」
「海津の城も手に入れる」
「そうしてきますな」
「そして北条と徳川も動く」
このことも間違いないというのだ。
[8]前話 [2]次話
※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりを挿む
[7]小説案内ページ
[0]目次に戻る
TOPに戻る
暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ
2024 肥前のポチ