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真田十勇士
巻ノ一 戦乱の中でその四

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「しかも兵は強い」
「三河武士の強さは確かですな」
「三方ヶ原でも長篠でもそれからも強かった」
 三方ヶ原では勝っている、その時真田家が仕えていた武田家がだ。この時家康は死を覚悟さえした。しかしというのだ。
「敗れてもな」
「その徳川家だからこそ」
「敵としては強い、しかも今の徳川は兵も多い」
 これまでの徳川家とは違ってというのだ。
「遠江、駿河も手に入れ百万石となった」
「その百万石が我等にきますな」
「数まである、あまりにも強い相手じゃ」
 昌幸は楽観せずに言った。
「守りを固める、そして策も使う」
「あらゆるものを使い」
「家を守る、源三郎御主もじゃ」
 その信之というのだ。
「動いてもらうぞ」
「それでは」
「まだ間がある、徳川が来るにしてもな」
 徳川の領地から信濃の北にある上田まではというのだ、信濃は南北に長くその北の上田まで徳川家が来るには時があるというのだ。
 そしてだ、その間にというのだ。
「羽柴殿につきな」
「上杉殿ともですな」
「懇意になり」
「その間に備えもしてじゃ」
 昌幸はまた家臣達に述べた。
「人も集める、その人は」
「忍ですな」
 信之よりもまだ若い、ようやく前髪を落としたばかりであろう若武者が言った、顔立ちはやはり昌幸を思わせる、しかし。 
 より一本気であり精悍でだ、揺るぎない強ささえ感じさせる顔立ちの若者だ。その彼がここで昌幸に言ったのだ。
「影から動ける」
「その通りじゃ」
「やはりそうですか」
「源次郎、わかっておるな」
 昌幸は今度は次子である彼、幸村の幼名を呼んだ。
「御主にも動いてもらうが」
「それがしはまずは上田に出て」
「その忍達を集めよ」
 これが彼、幸村に言うことだった。
「よいな」
「畏まりました」
「戦がはじまるまでには戻れ」
 刻限はその時までだった。
「だから急いで集めよ」
「数は十人程で宜しいでしょうか」
 幸村は忍の数をだ、父に問うた。
「それ位で」
「その十人は全て一騎当千の豪傑ばかりにせよ」
「では」
「その者達を集めたなら御主に預ける」
「それがしの家臣にですか」
「御主には忍の術も教えた」 
 昌幸はただ幸村に武士としての武芸や軍学、それに学問だけを教えたのではなかった。彼のその身のこなしも見て忍術も教えたのだ。
 そして彼が武芸等武士の芸だけでなく忍術でも相当なものを見てだ、今ここで彼に対してこう言ったのである。
「だからこそじゃ」
「はい、忍の者をですな」
「家臣とするのじゃ」
「そして徳川家との戦を戦い」
「そのうえでじゃ」
 さらにというのだ。
「その戦の後もな」
「その忍達をですな」
「御主の家臣として使うのじゃ」
 こう我が子に言うのだった。
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