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真田十勇士
巻ノ一 戦乱の中でその二

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「あの方が次の天下人になりますか」
「織田家の後で」
「そうなる、しかしまだ確かではない」
 秀吉が天下人になるとだ、昌幸は見ていてもだ。
「まして今信濃とその周りはじゃ」
「はい、これまでは織田家のものでしたが」
「それは一時のことでした」
「滝川殿、森殿は退かれました」
「甲斐の川尻殿は甲斐の国人達に討たれました」
 これが今のかつての武田家の領地の状況なのだ、文字通り混沌としている。
「徳川家、北条家が動くとか」
「甲斐、上野、そしてこの信濃も狙っています」
「羽柴家が天下人になるにしても」
「羽柴家の領地は遠いです」 
 近くの美濃や尾張は織田信雄の治めるところだ、確かに織田信雄は秀吉に近いのだが彼についてはというと。
「美濃の織田信雄殿は」
「どうも頼りになりませぬ」
「信長公がおられた時からです」
「あの方は」
「あの御仁は天下人になれぬ」
 昌幸はこのことは断言した。
「到底な」
「ですな、あの方は」
「そうした器ではありませぬな」
「このことは間違いありませぬ」
 家臣達も言う、信雄の器については。
「精々一大名」
「それ位ですな」
「それ以上にはなれず」
「大きくなれませぬな」
「若し信雄殿に助太刀を頼んでもじゃ」
 美濃からだ、信濃に兵を送ってくれと言ってもというのだ。
「動かれぬわ」
「信濃が大事とは思われておらぬ故」
「こちらにはですな」
「兵は送られませぬな」
「ましてあちらも厄介なことになっていますし」
「こちらには」
「そうじゃ。織田家の助力は頼めぬ」
 その信雄のだ。
「そして徳川、北条は間違いなく来る」
「あの二家は」
「必ずですな」
「こちらに来る」
「そうなりますか」
「それで争う」
 徳川、そして北条がというのだ。
「そしてこちらにどちらか、若しくは両方が来る」
「徳川と北条」
「そのどちらかが」
「そしてまだおる」
 他の家もだった、昌幸は言った。
「上杉家がな」
「上杉殿ですな」
「あの方もおられましたな」
「これまでは織田家と戦っていましたが」
「あの家も」
「信濃に来るかわからぬ」
 その動きはだ、一切わからないというのだ。
「つまり我等は徳川、北条、上杉から攻められる恐れがあるのじゃ」
「それをどうするか」
「どう守るか、ですか」
「当家を」
「それが問題ですな」
「そうじゃ」 
 まさにというのだ。
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