六十話:失った悲しみ
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続ける。それが俺の選択だ。そこまで考えたところでふいに後ろから頬をつねられた。
「また一人で背負うつもり? そんな悪い男にはお仕置きが必要にゃ」
「……いい女には隠し事は出来ないな」
「こんないい女を心配させるんだからルドガーは本当に悪い男ね」
「でもそんな悪い男に惚れたのは君だろ?」
振り返ることもせずに笑いながら会話を続ける。後ろからは黒歌の楽しそうな声が聞こえてきたのでそっと手を引いて引き寄せる。背中に柔らかな感触と温かな体温を感じる。少し驚いたような気配がしたけどそれもすぐになくなり甘えるように肩に頭をのせて頬をすりよせて来る。
「そう、私は悪い男に騙されたダメな女」
「でも、そんなダメな女を俺は誰よりも愛してるよ」
「ふふふ……私も」
耳元でささやきながら黒歌が俺を抱き締めてくれる。俺には黒歌が居てくれる。それだけでどんな険しい道でも歩いていける。どんな暗闇でも明るく俺を照らしてくれる最愛の人。今ここにこうして生きていることで出会えた奇跡。一人では乗り越えられない壁も二人なら乗り越えられる。そう確信させてくれる。
「今日はもう部屋に戻って寝よう。流石に眠い」
「このまま寝りたいにゃ」
「こんなところで寝たら風邪ひくだろ」
俺の上に覆いかぶさって動く気配がない黒歌に苦笑しながら言うが一向に動く気配はない。それに小さく寝息が聞こえてくる。まあ……俺の事を心配して待っていてくれたんだもんな。頑張ったご褒美でもあげないとな。俺はゆっくりと体勢を変えて黒歌を抱きかかえる。簡単に言うとお姫様抱っこだ。
「ほら、これなら眠りながらでも動けるだろ? 俺だけのお姫様」
「ふふふ……流石、私だけの王子様。よく分かってるにゃ」
二人で微笑みあいながら俺達に貸された部屋に戻っていく。うつらうつらとするお姫様の顔が左目でしか見えないのは残念だけど、あいつも味わった悔しさだ。俺も我慢するさ。それにしても、この右目はどうしようかな……あいつみたいに仮面で隠すのも目立つしな。ああ、怪我なんだからガーゼとか包帯で隠せばいいか。明日からはそうしよう。などと考えていると部屋に辿り着いたのでゆっくりとベッドの上にお姫様を下ろして毛布を掛ける。そこで、あることを思い出す。
「黒歌、そういえば言いたいことがあったんだけどさ」
「んー……にゃに?」
眠たげに呟きながらも俺の言葉をちゃんと聞いてくれる黒歌に幸せな気分になりながら言葉を続ける。
「今度、俺とデートに行かないか?」
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