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第一章
赤い男
ある日のことだ。フランス皇帝の官邸にだ。一人の男が来た。
小柄で猫を思わせる緑の目をしており髪は茶色がかった金色である。そしてその服は。
異様な服だった。炎の様に赤い。上着もシャツもズボンも。サン=キュロット、長ズボンという革命からのフランスの服であるがそれでもだ。異様と言うべき服であった。
その服を着た男がだ。こう官邸を警護する衛兵に言うのであった。
「皇帝陛下はおられますな」
「待て、何の用だ」
青と白、それに髭を生やし耳にイヤリングの衛兵、まさにフランス軍人の彼がその男の今の言葉にだ。不穏なものを感じずにはいられなかった。
それで警戒を露わにしてだ。彼に問うのであった。
「何故皇帝陛下に会いたいというのだ」
「用があるからです」
「だから何の用だ」
「お話がしたいのです」
彼は穏やかだが何か含みがあるような声であった。
「だからこそです」
「だから何の様なのだ」
「皇帝陛下にこう言って頂ければいいです」
彼はここでは笑って述べてきた。
「伯爵が会いに来たと」
「伯爵だと!?」
「はい、伯爵です」
にこやかだがやはり何かがある笑みであった。
「だからこそです」
「伯爵。伯爵といっても色々だが」
「赤い伯爵と言っていいでしょうか」
今度はこう話してきた彼であった。
「それでおわかりになられると思います」
「皇帝陛下がか」
「そうです。それでは御願いできますか」
「一体何なのだ」
衛兵には全くわからない話だった。しかしであった。
その伯爵を自称する彼を見てだ。そのうえでだった。
「確かに怪しい者だが」
「いつも言われます」
「しかし。赤い伯爵だな」
「その通りです」
「その名前を陛下にお伝えすればいいのだな」
「そうすれば会ってもらえますので」
「話は聞いた」
衛兵はここで頷いた。
「それではな」
「お伝え願えますね」
「わかった。ではな」86
こうしてであった衛兵はまずは官邸の中に引っ込んだ。そして暫く経ってから戻ってきてだ。こうその自称伯爵に対して答えたのだった。
「信じられないがだ」
「御会いして頂けるというのですね」
「そうだ」
その通りだとだ。彼は答えた。
「皇帝陛下直々にな」
「そうなる筈です」
「何故そう言える」
衛兵の顔はまさにいぶかしむものだった。
「皇帝陛下だぞ」
「皇帝陛下だからです」
そうだというのである。
「ナポレオン=ボナパルト殿だからです」
「わからん。しかしだ」
「はい、案内して頂けますね」
「こっちだ」
衛兵は彼を官邸の中に案内していく。官邸は宮殿でもあった。彼はその中を進みながらだ。こう衛兵に対して語る
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