辛勝凱旋
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しかし悲しいかな、ミネロヴァがどういう意図を持って言ったか定かではないが、少なくともデイドラはリズが(常識知らずの馬鹿という意味で)お姫様であるとミネロヴァに同意したのだが、すっかり舞い上がってしまったリズにそれを気付けと言うのは色んな意味で酷だろう。
「赤の他人を助けるなんて優しいのね。私は初めからあなたが優しいのはわかっていたけれど」
「ただの気まぐれだ」
「そうやって強がるあなたも私は好きよ」
「っく………………」
デイドラは何を言ったところで、ミネロヴァに手の平で躍らされ、翻弄されると考えて、黙った。
「ふふっ、そんな冷たくて優しいデイドラにためになる魔法の話をしてあげようかしら」
「いつものことだろう」
「魔法の見方は人によってそれぞれだけれど、私は魔法を『守るための手段』と思っているの」
デイドラの嫌みを華麗に無視してミネロヴァは言葉を続けた。
「魔法は確かに劣勢を一度で覆すほどの強力なもの、または単発威力が劣っていたとしても装填速度が短い戦況を維持することのできるものもあるわ。だけれど、結局、そのすべての魔法は一つのことに集約されるのよ」
「それが『守るための手段』、か」
デイドラは逆らっても無意味だと悟り、不承不承話に乗ることにした。
「そう、強力な魔法は一度で危機に陥った仲間を守り、そうでないものは影で仲間を支えている。治癒魔法はその最たるものと言ってもいいわ」
「それで、それがどうしたというんだ?」
「魔法が守るための手段であることを知る者こそその魔法の真の主と言えるの。逆に知らぬ者は真にその魔法を使えていると言えないわ――これはあくまでも私の見方だけれども」
と、締めくくるが早いか、
「それと、言い忘れたけれど、守る対象は何でもいいのよ。仲間でも、見知らぬ他人でも、自分でもいい。見も知らぬ他人を守って自分を守らない馬鹿な程にお人好しな冒険者がこんなところにいるのだから」
と、付け加えた。
「誰だろうな、俺には全くわからない」
デイドラは白々しくミネロヴァに背を向けて言う。
「あなたよ」
そのデイドラの腹部と肩に自然な挙措で腕を回して、抱き寄せた。
その手からは柔らかな縹色の光が漏れ出した。
デイドラは突然のことに目を見開いたが、包み込まれるような温もりに気力だけでつなぎ止めていた意識から指を一本ずつ離していき、ややあって、手放した。
すぐに安らかな寝息を立てはじめたデイドラを抱きしめるミネロヴァに普段の妖艶さはなく、それどころか聖母のような慈しみさえ満ちていた。
「お眠りなさい」
ミネロヴァは深い笑みを湛え、優しくデイドラを撫でると、
「君はもう帰りなさい。
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