第五十二話 来訪者その六
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「こうした事態もな」
「不思議ではないというのだね」
「そういうことだよな」
「ふむ。実に落ち着いているね」
「ああ、あんたのことは聞いてるよ」
薊は自分から伯爵に言った。
「あたし達の生みの親の一人だよな」
「天極博士と共にね」
「だよな、じゃああんたがあたし達の親父か」
「そう思ってくれてもいいよ」
「まあ親父って言われてもな」
この関係についてはだ、薊は少し首を傾げさせ微妙な笑顔になって言った。
「ちょっとな」
「実感が湧かないね」
「正直な」
「そうだろうね、さて」
ここでだ、伯爵はというと。
その緑の目を悪戯っぽく光らせてだ、薊だけでなく全員に言った。
「ここでの立ち話も何だから」
「場所を変えて、ですか」
裕香が伯爵のその言葉に問うた。
「そのうえで」
「話の続きをしよう」
こう提案したのだった。
「それでどうかな」
「そうですか」
「そして君は」
伯爵は裕香にも言った。
「私達の娘ではないね」
「はい、私は」
「そうだね、これでも誰が娘かはわかっているよ」
「そうですか」
「私は自分が生み出したものは忘れていないよ」
楽しく微笑んでの言葉だった。
「誰もね」
「それで私のことも」
「わかっているよ」
娘ではないことがというのだ、自分の。
「君はこの娘達の友達だね」
「そうです」
裕香は薊の方を見てそのうえで伯爵に答えた。
「薊ちゃん達の」
「そうだね、随分と仲がいいみたいだね」
伯爵はこのことも見抜いた様にして語った。
「何よりだよ、人は一人でいる場合もいいけれど」
「誰かといることもですか」
「いいからね」
だからだとだ、伯爵は裕香にも話していった。
「君という友達がいることはいいことだよ」
「薊ちゃん達にとって」
「うん、非常にね」
「じゃあ話は何処でするんだい?」
薊は伯爵のその緑の目を見つつ彼に問うた。
「何処かの店に入って話をするのかよ」
「いや、別荘に行こう」
「あんたの」
「この神戸にも別荘を持っていてね」
実に何でもないという言葉だった。
「そこに行こう」
「そうか、じゃあな」
薊は伯爵の言葉を受けて他の少女達に顔を向けて問うた。
「皆もそれでいいか?」
「断る理由はないと思うわ」
菖蒲が薊に答えた。
「特に」
「というか伯爵さんが全部知ってるみたいだから」
菊も伯爵を密通言うのだった。
「ここは是非ね」
「一緒に行かないとね」
向日葵も菖蒲達と同じ考えだった。
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