第十七話
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明すると、さっき言った通り、魔導書は一種の魔法だ。高位の魔術師が蓄えた膨大な知識と知恵を振り絞り、魔力を込めたインクを精緻に描くことで読者に強い自意識を抱かせるのだ。その自意識は驚くほど現実味に帯びていて、経験者が語るには鏡の前に立ったように目の前にもう一人の自分が立つ真っ白な世界で、そのもう一人の自分と問答をするのだという。その一つ一つが、自分の深層に埋もれていた言葉、感情、記憶を鮮明に意識させて、最後の問答を追えた途端に意識が途絶えるらしい。次の日目が覚めてステイタスを更新すれば、見事魔法が発現している、という流れだ。
魔導書によって発現された魔法の大概は、その人の感情を再現したような効果や現象を引き起こす。魔法に精通した前世の友人が推測するに、専門用語でプラシーボ効果が働いているようだ。実際には効果の無いはずの施術を行うことによって良い効果が現れることなのだが、読者が予め『魔導書を読めば絶対に魔法を発現する!』という先入観、または激しい思い込みを抱いていることで、ありもしない効果が出てしまうという現象が最も近しいと考えているらしい。魔導書に込められている膨大な魔力はそれを裏付けるような迫力を持たせるための工作、もしくは自己暗示を促す魔法を込めているからという自説を持っていた。
まあ、専門家が解析しても素性が知れず、作った本人は魔法大国にて極秘扱いされているから行方知れずで迷宮入りしている論である。
ともあれ、私が言いたかったのは、私はすでに3つのスロットが埋まっているため、もしくはもう魔法が増えることはないという激しい思い込みを抱いているため魔導書は組み込まれたプログラムを発動することができず、無反応を貫いたということだ。
因みに、これで魔導書に込められた魔力が霧散するとかいうことは無い。発動できなければ魔力は魔導書にしたためられているはずのインクに還元される。前世で一回試したことがあるから確かだ。
「あの……どうかしたんですか?」
本を開いてから長い時間黙考していたようで、心配そうに訊ねてきたシルによって思考の海から釣り上げられた。
「えぇ、大丈夫です。ちょっと不思議な本でしたので、つい」
「本当に何も無かったのか?」
それは、唐突に背中から突き刺さった。問い質し、糾弾するかのような鋭い声に反射的に本を持つ指がピクリと力んだ。
力を抜き、振り返ると、そこには制服を纏った従業員のエルフが立っていた。
「はい、何も」
「ちょっとリュー、どうしたの、急にキツイ声出して」
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