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駄目親父としっかり娘の珍道中
第75話 子供ってのは何処までも我が道を行くもの
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ても、彼は彼女にとってかけがえのないたった一人の肉親なのだ。それをこんな所で失いたくはなかったのだ。

「兄者、立って! 早く此処から逃げるんだ!」
「私の……私の手塩にかけて作り上げた紅桜が……私の作った刀が―――」

 鉄子の言葉になど耳を貸す様子もなく、鉄矢は燃え盛る紅桜の方へとゆっくりと歩み寄っていた。最早、彼の中には妹の事など微塵もなかった。あるのは手塩に掛けて作り出した紅桜の事だけであった。
 その紅桜が紅蓮の炎に巻かれて燃えている。跡形もなく消え去ろうとしている。自分の作り上げてきた全てが無に帰ろうとしている。それが鉄矢には我慢出来なかったのだ。

「私の……私の……私の、紅桜……私が作り上げた……最強の……」
「兄者! 聞こえないのか? 兄者ぁ!」

 妹の声になど一切耳を貸さず、兄鉄矢はふらふらと燃え盛る紅桜の元へと歩み寄っていく。何もかもかなぐり捨てて、ただひたすらに打ち込んだ代物だ。愛着も相当あるに違いないだろう。虚ろな表情になったまま鉄矢の両手が燃え盛る炎へと伸びていく。
 めらめらと燃え盛る炎の中に見えるは煌めく銀色の刃。桜色を帯びた銀色の刀身が其処にはあった。間違いない、あれこそ紅桜だ。 紅桜はまだ燃え尽きてはいなかったのだ。歓喜の表情を浮かべ、鉄矢は手を伸ばす。紅桜の元へと手を必至に伸ばした。
 紅桜は目の前にあった。いや、正確には目の前にやってきたのだ。そう、産みの親でもある鉄矢の胸板を深く貫く形で―――

「あ……兄者……兄者ぁ!」
「こ……こいつぁぁ―――」

 目の前に映る光景に鉄子は絶叫し、銀時は驚愕した。其処に映ったのは、鉄矢の胸板を貫いたであろう妖刀紅桜と、その紅桜を持つゲル状の体を象った化け物の姿であった。
 まるでスライムが人の形を成しているかのような醜悪極まりない姿であった。その化け物が紅桜の刀身を掴み、鉄矢の胸板を刺し貫いたのだ。

「がっ! はぁっ―――」

 鉄矢の口から鮮血が飛び散る。ゲル状の化け物は鉄矢の体から紅桜を強引に抜き取ると、今度は鉄子と銀時の方へと歩み寄りだした。
 今度はこっちに狙いを定めたようだ。

「鉄子! 兄貴を連れて此処から出ろ! 俺が足止めをする」
「ぎ、銀時……」
「早く行け!」

 怒号を挙げ、鉄子を走らせる。鉄子は軽くうなずき、一心不乱に倒れ伏した鉄矢の元へと走った。ゲル状の怪物が横を通り抜け両とする鉄子を見る。が、見ただけだった。どうやら彼女には一切興味を示していないようだ。怪物が狙いを定めていたのはただ一人。銀時だけであったようだ。

「そうかい、俺が狙いって訳か。そりゃ話が早くて助かるぜ」

 怪物がゆったりとした動きで銀時に迫る。ドロドロの液状の体とその中に異質にくっついたかの様に映る紅桜の刀身。
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