蒼天に染めず染まらず黒の意志
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られなかっただろう。
綺麗事を並べられたら彼の矛盾に失望していただろう。
彼が救いたいのは自分達だけではなくて、生きている人そのモノなのだから……王であった月と同じく。
「陛下……黒麒麟もこの人も確かに平穏に対する狂信者です。しかし……それは王に想いを馳せる兵士達となんら変わりません。
私は侍女に身を落として、黒麒麟と共に戦う兵士達と多くの時間を過ごしてきました。それぞれに幸せがあり、それぞれに願う世界があり、それぞれに欲しい平穏があります。彼らの想いの華を紡いで繋いで、黒麒麟は平穏の世を作り出さんと戦っておりました。
そして末端である彼らが命を賭けるから黒麒麟は戦える……同様に私達は、末端で汗を流して血税を納めてくれる民が居るから生きていくことが出来ます。私達が約束する平穏とは、生きる民全ての為であるべきでしょう。故に、私も覇王曹孟徳も黒麒麟も何も変わらなくて、私達が望む平穏は民達の願いを叶えることに等しい……私はそう思います」
少しだけでも、彼の戦っていた意味を伝えておきたくて、月は想いを話した。
一礼して頭を下げた月に、劉協は穏やかな視線を向ける。
劉協が知る世界は箱庭だけ。生まれた時から準備された籠の中の鳥で、月の見てきたその世界が少しばかり眩しく感じた。
人の想いがどれほど強いのか。平穏とはどれほど尊いモノなのか。末端の兵士に至るまで渇望する平穏を……自分は作ろうと思っていただろうか、と。
それでこそ尚、人の願いを紡ぐ彼のことを、“天の御使い”とは言えるのではないか。
劉協はそう思う。
同時に、自分の浅はかさに落胆する。
見知っている少女からの言の葉ならばこれほど真っ直ぐ胸に入るのだ。
天であれと、そうあれかしと高めてきた自分は、やはり虚像だと感じる。
沈黙が静かに場を支配していた。華琳は月を優しい瞳で見つめ、少しばかり誇らしげに小さく笑った。
「陛下。長い時間を玉座の上で過ごすのもなんでしょう。お茶とお菓子をご用意いたしますので東屋にて続きをしては如何でしょう?」
「む……余はまだ疲れておらんぞ」
「いえ……臣に少し考えがございます。陛下もきっと……納得して頂けるかと」
疑問が浮かぶ。目的を話さぬ華琳は普段通り。場の主導権を取りにくる彼女に、劉協は少しばかり不満げに眉を寄せた。
「……何を考えておる」
「楽しいこと、でございます」
にっこりとほほ笑んでから、華琳は秋斗を流し目で見やった。
変わった表情は彼の良く知るモノ。悪戯をする時の華琳の不敵な笑みが其処にあった。
――またなんか企んでやがる……。
頬を引き攣らせた秋斗は少しだけ顔を俯けた。今度はどんなことを仕掛けてくるのか、彼には全く予測さえ出来ない。
同じよう
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