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乱世の確率事象改変
蒼天に染めず染まらず黒の意志
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と優しい笑みを浮かべた彼女は、桜色の唇から細やかに言葉を流していく。

「ぬるま湯に絆されず一人氷の河に身を沈め、兵士と共に血だらけになりながら戦っていた男の人が居ました。命が保障される安全圏に収まることなく、ほんの一筋の刃で死ぬこともある最前線を、兵士と共に切り拓いて想いを繋いでいた男の人が」

 今の彼とは違う、本物の黒麒麟の話。
 徐晃隊から聞いたこと、雛里から聞いたこと、そして、彼が戦場から帰って来ておかえりと迎えた時のこと。友を諦観するだけに留まらず、己が手で切り捨てることすら厭わないと、小さな背中を見せていた時のことも……全てを思い出して月は語る。

「両肩に背負った命の数は敵味方の別なく全て、掛けられる期待は王と並ぶ程に高く大きく、望まれる姿は世を救う英雄にして善良な正義の使者。
 ただ駆け抜けるだけなら良かった。武人として戦うだけで済むのならきっと戦に価値を見出せた。
 自分の為に戦えたなら良かった。手の届く範囲だけの幸福で満足出来たならきっとそれは普通の幸せでありましょう。
 それがどうしたと居直れるくらい傍若無人ならば良かった。自分の望む世界の為だけに戦えるならきっと乱世を楽しむことも出来た。
 人を騙すことに愉悦を感じられる人間ならば良かった。素知らぬふりをして内心で舌を出せるならきっと心痛めずに戦い続けられた。
 しかし彼は……そのどれにも染まること無く、一人でも多くの人を救わずに居られず、人が持つ生への渇望を叶えずにはいられなかった」

 今尚、心に残る姿がある。
 彼らと笑い合いながら持っていた懺悔と苦悩。
 屍を食んで血を啜って力と為してきたから、彼はその責を全うせずにはいられない。
 他者を救う為に命を以って責を果たそうとした月だからこそ、徐晃隊と雛里を除いて、彼の想いを代弁するに足りる。

「未来を読めるのではないかと思える程の予測の数々は、常に人を救うことを考えて立てた“もしも”の方策。可能性を一つ一つ摘まみあげて積み上げて、そうして乱世の為のことしか考えておりませんでした。
 他者への憎しみを持つことも出来ず、誰にも答えを求めることなく真っ直ぐ突き進み、乱世を乗り越えられる力を得る為に友達さえ切り捨てた。
 自己へ憎しみを向けられることを望み、自分を殺したいと憎んで生きろと言いながら、幸せになってくれと懇願する。そんな人でした。
 自分を憎むであろう他者の幸せを望む人間が、この世界にどれくらい居りましょう?」

 思い出すのはあの夜のこと。
 生きてくれ、と震える声はまだ耳に残っている。
 救わせてくれ、と懇願しながら零した涙は……偽悪を貫く彼が流した本心の一雫。

 嗚呼、と月は思う。
 あの時、確かに月は救われた。
 謝られていたら彼が描いている世界など信じ
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