蒼天に染めず染まらず黒の意志
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与えられた名前……“徐公明”の通りに。
「忠義とは主を信じ仕えることと考えております。
信じますとも……変わってくれる、分かってくれる、己が王なら私の描く世界を作れると……それが私と黒麒麟の忠義で、その為ならばこの命を捧げても構いません。私程度を呑み込めない王が強大な覇王に勝てるなら、この世界は変えられない。その時は生かされる覇王がその王を殺すか、覇王が殺された場合は若くて才持ちしモノが偽りの平穏を壊し尽くすことでしょう。
歴史はそうして繰り返します。“今この時だけの平穏”で満足しては……死んだモノ達の想いにも、先を生きる人々の想いにも、報いれないのですから。“徐公明”は……大陸を平定し、悠久の平穏を作り出せる王、それも覇を貫く王の元でしか生きられません」
劉協の瞳に移る彼は異端。
身に宿す忠義は王にではなく、自分が思い描く世界に対してだけ……いや、殺された人々や世界を変えようと抗った人々に対して、と言おうか。
通常の忠義とはあまりにかけ離れている。バカらしく愚かしい。
人それを……狂信と言う。
戯言、絵空事に近しい世界を思い描く彼は、誰よりも理想家。
彼女は知らない。秋斗が生きていた世界が二千年先に漸く作られていたことも、彼がそれの雛型を作りたいことも知らない。
言うなれば視点が遠すぎるのだ。悠久の平穏をと望みながら、その場その場で手を打とうと考えるしかない普通の人達では、彼の想いを受け入れることすら出来ない。
天与の才を持つ華琳や、長く黒麒麟を喰らってきた月、そして……雛里や詠や徐晃隊など、彼と想いを共有してきたモノくらいしか、真には分かり得ない。
大陸の常識で生きてきた劉協には、彼の在り方も思想も浮世離れしすぎていた。
「……確かにそなたは……“天からの御使い”ではなさそうじゃ。しかし余はそなたのことを……別の意味で人とは思えぬ」
ふるふると首を振って、劉協は俯いた。
彼女が仄かに憧れていた英雄は、平穏の為に狂っていた。
何がそうさせた。何がこの男を此処まで狂わせた。そう考えても答えは出ない。
忠義溢れる歴史上の英雄の枠からも外れているこの男は、瞳に覗かせる光からも察せられる程に、己の思い描く平穏を渇望してしまっている。
落胆なのか、それとも失望なのか……劉協は内に描いていた幻想の姿を打ち壊された。
彼の喉が鳴った。不敵なはずの苦笑は、少しばかり寂しげな音だった。
「……陛下。黒麒麟に救いだされた私からもお話を一つよろしいですか?」
ぽつりと、月が小さく言葉を零す。
すっと目線をそちらに移した劉協は、彼女の力強い眼差しに少しばかり圧された。
「よい。申してみよ」
「ありがたく……では、こんなお話を致しましょう」
ふっ
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