蒼天に染めず染まらず黒の意志
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処にあるのは期待と失望の二律背反であった。
――“天の御使い”……ね。
くつくつと喉を鳴らした。誰にも聞こえないように口の中で呟いて、彼は苦笑を一つ。そのくだらなさに、安っぽさに。
「私が人では無い、と? ご冗談を」
――よく言う。世界の外から来た侵略者如きが。くだらねぇ。
自分は人では無いのだと自分で肯定しながら、口からは嘘と本当を並べ立てるだけ。それしか出来ないし、誰にもバレてはいけない。
「私、そして黒麒麟が天よりの御使いであるならば、この子を救わない選択をする意味がございません」
そっと横に流し目を送って月を見る。
大陸で唯一、皇帝の為に戦った英雄を。誰よりも早く大陸の王となった、一番天下統一に近かった王を。
「我が盟友である曹孟徳も理解しているはず。“もし、覇王曹孟徳が英雄董卓の元に付いていたのなら、漢という国が亡びに向かう事は無かった”、と。ただ、彼女は知っていて見捨てたわけですが」
ギシリ、と劉協の拳が握られる。その言葉は責めるに足るモノであり、月という少女を知っていれば許せるはずが無い。
あの連合で董卓軍に付くモノが居たのなら勝利の確率も格段に上がったはずで、それが華琳ならば言うまでも無く大きい。
画策は広域に渡り、人とのつながりを使うことなど容易に出来る。天与の才を持つ華琳なら、連合で勝利を収める方策を打ち立てることも出来よう。“他の勢力があまりに脆いこの世界に於いては特に。”
黄巾の時の繋がりから劉備を呼ぶことも出来たであろう。華琳が董卓側に付いたのなら劉備も董卓の噂に疑問を挟んだだろう。そうすれば黒麒麟は必ず董卓軍に付くはずで、仲のいい幽州の公孫賛も董卓側に付くのは目に見えている。
漢の忠臣と謳う馬騰も当然と董卓に与し、若い芽の力を見極められる孫呉でさえも袁家を討つ機会だと董卓軍に肩入れ出来る。
それを分からぬ華琳では無いし、秋斗もその程度予測出来ないはずも無い。
史実の董卓が善良で、史実の曹操と手を組んでいたのなら、乱世は長く続くことも無かったのではなかろうか……そんな可能性さえ彼は考えられるのだから。
――そうして、漢の平穏は守られたはずだ。董卓という絶対的強者を覇王の上に乗せて。“ただ民を救いたいのなら”、そして“自分達が幸せになりたいのなら”その選択肢は十分に選べた。
運命の分かれ道、あらゆる確率が収束したのは、あの連合で華琳がどう動くかでもあったのだ。董卓が勝者となる確率を、彼女は選ばなかったわけだが。
「故に私も黒麒麟も“天の御使い”などでは有りません。英雄董卓が作る世よりも、激動の乱世を制した覇のモノが敷く世界を望んでいます。覇王と同じく乱世を喰らう欲望に塗れた人間で、己が描く世界を作り出したい人間です
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