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【銀桜】7.陰陽師篇
第5話「自分ニモ負ケズ」
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に、何かを護る資格なんてないのに。
――こんな私が誰かを護るなんて……。

『そやかてヘコんどったってしゃーないやん。気ィ重うなって泣いてばっかでええことあらへん』
『せやけど笑っとると胸が弾んでみんなとごっつう楽しく過ごせてええことずくしや』

 遠い過去の言葉が沸き上がる。
 屈託のない岩田の笑顔が眼に浮かぶ。
 自らの手で消してしまった笑顔を思い出すだけで苦しくなって、罪悪感に潰されそうになる。
 ……そのはずなのに、押し寄せた衝動が薄れていく。
 これも『笑顔』にある不思議なチカラのおかげだろうか。
 それとも、昔語られた岩田の想いがそうさせたのか。
――どっちにしろ私はまだアイツに支えられてる。
――へこんでたって仕方ない、か。確かにお主の言う通りだよ。
――……私はずっと立ち止まってる。
――戦いで大切なモノを失っても兄者は前へ前へと歩いてるのに。
――でも私は兄者のように強くない。
――私は何もできない。
 どんどん卑屈になっていく心に、ふとある言葉がよぎる。

『何もできねェ、どうしようもねェって突っ立ってたらそれでシメーだ』

――………。
――私は他人の重荷を抱えるような器は持ち合わせてない。
――何もできないかもしれない。
――けど、だからって何もしないままでいる気か?
――そんなの違うだろ。
 ずっと後ろ向きだった双葉の心は、少しだけ前向きにズレた。
 今は双葉の中にある少年の笑顔と兄の存在が彼女を支えてくれるだろう。
 そう、今はまだ。


 双葉はつけっぱなしのテレビを見る。
 そこにはいつもと変わらない笑顔で天気予報を告げる結野アナが映っていた。
 批判にも罵倒にも負けずに結野アナは笑顔をふるまってお天気アナとして戦っている。
 彼女の笑顔に救われた人は何人もいると兄は言っていた。
 それが本当なら、『笑顔』で人々を幸せに導ける結野アナは自分よりよっぽど立派な女性だろう。
 だが今は……。

――ヘラヘラ笑ってるだけだ。

* * *

 江戸には雨が降り続いていた。
 傘を差す街の人々が溢れる中、女が一人雨に身を濡らして歩いていた。
 そんな彼女を気遣う者は誰もいなく、また本人もそれでいいと思っている。
 『今日の天気は晴れ』と見事に予報を外したお天気アナが悪い。この雨を降らせた原因は自分にある。
 その女――お天気アナ・結野クリステルは、雨に浸りながら街を歩いていた。
 すると電気屋のガラス窓に背を預けて、(ただず)んでいる銀髪の女がいた。
 雨が降ってるのに傘も持ってない。かといって雨宿りしてるようにも見えない。
 なぜならその銀髪の女も、自分と同じように雨に濡れていたから。
「あの風邪ひきますよ。傘忘れたんですか?
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