第5話「自分ニモ負ケズ」
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か。
――最初から決めつけて、嫌って、それで終わっていた。
――見なければ何も見えてこないのに。
偏見でしか見れない自分に嫌悪しつつも、双葉は先ほど銀時から語られた言葉を思い出す。
『市井の人々の笑顔のために力を使いたいから』
「笑顔……『笑顔』か……」
うわ言のように双葉は呟いた。
『笑顔』がどれほどのチカラを持っているか、双葉は知っている。
彼女もかつて大切な仲間の『笑顔』を護るために戦っていた。だから自分以外にも誰かの笑顔のために動く奴がいたなんて、正直驚きだった。
『笑顔』――それはあるだけで人々を幸せにさせる不思議なチカラを持っている。
いいや、そんなチカラがなくても双葉は純粋に『笑顔』が好きだった。
寺子屋で暮らした仲間の笑顔には、何度も励まされ、それは大切なモノの一つになっていた。
自分の記憶に残る『笑顔』を見つめる中で、双葉はふと思い出す。
笑顔をふりまいて暗く沈んでいた仲間達を明るく照らした少年を。
『岩田光成』。
その少年はいつも笑っていた。
笑顔を絶やさずみんなを笑わして、戦争で苦しんでいた仲間を元気づけていた。
そんな大それたことをしていると本人は気づいてなかっただろうが、だから岩田の周りにはいつも笑顔が溢れていた。
――本当に不思議な奴だったな。
――能天気でふざけてばかりで、おまけに変なこと言い出して。
――でも嫌いじゃなかったさ、アイツの笑顔は。
――アイツの笑顔は……。
『お前が潰した』
――!
どこからともなく聞こえる声。
黒い空と黒い雨が広がる世界。
轟く不気味な艶めかしい笑い声。
真っ赤に染まった手。
血まみれの刀。
そして。
斬り裂かれた少年の笑顔。
「や…め…!」
突然過去の映像が連鎖的に広がり、激しい頭痛に襲われる。
よろめく双葉は壁に大きく頭を叩きつけ、荒げた呼吸を吐く。
たびたび起こる記憶の衝動。
昔を思い出すような生やさしいものじゃない。
目の前に広がる光景は、現実とさえ錯覚してしまうほど押し寄せる幻影だ。こんなの尋常ではなく明らかにおかしい。
しかし、罪悪感の念が真っ先に双葉を蝕んだ為、今の彼女に考える余裕などなかった。
何もついてない自身の手を物憂げに見つめる双葉の心に、後悔の嵐が吹き荒れる。
――私が……アイツの笑顔を消した。
目に焼きついて離れない。
忘れたことなんてない。
血まみれの無惨に崩れた少年の笑顔を。
――岩田……私がお主から笑顔を消したんだ。
――こんな私をお主は許してくれないだろう。
――いや。私は絶対許されてはいけない。
――この手で大切なモノを消した私
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