第二十五話「初デート 前編」
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二つと、コーラとオレンジジュースを購入する。次の上映まで後十分少々か。
早めに席を確保する。席は後部席の真ん中辺りだ。
場内の客入りはそこそこだ。やはりというか、恋愛系だからカップルが多いようだ。
女性客、男性客、カップルが大体四:一:五くらいか。
映画館独特の雰囲気に隣の席からわくわくそわそわした気配が漏れている。
(無表情だけど目が雄弁に語っているんだよな……)
まあそれも不思議と可愛く見えるが。
ブザーが鳴り照明が落とされていく。巨大なスクリーンに流れる映画の広告集を前にエストの目は早くも釘づけになっていた。
映画の内容は不治の病に犯され余命一年と告げられた青年と、神様の命で下界していた天使との物語だ。
前世で色んな小説や漫画を読んできた俺にとってはありふれた設定だが、それでも深く作りこまれていて純粋に楽しめる。
そして、肝心なエストだが――。
『リチャード。あなたはこのままただ無為に残りの生を使うというの?』
『ミーシェ……。だけど、だけど僕……うぅっ』
『もう、あなたって相変わらず泣き虫なのね。いいわ。泣き止むまでこうしてあげる。だからお願い、残りの人生がたったの一年でも、生きて……精一杯生きて』
『でも、でも……! 僕はあと一年したら、君をおいて逝ってしまう……っ! それが死ぬより怖いんだ』
「リチャード、可哀想そうです……」
すっかり物語りに引き込まれて感情移入してらっしゃいました。
表情を変えず、しかし目を若干潤ませながら食い入るように画面を見つめている。
その右手は止まることなく、ポップコーンを口に運びながら。
『もうそんなこと考えてたの? バカね。私あなたを独りにさせるわけないじゃない』
『え?』
『あなたが向こうに逝っても寂しくないように私もついていってあげる。向こうに逝っても一緒よ』
『ミーシェ……』
「女ですね、ミーシェ……」
ヒョイ、パク。ヒョイ、パク。ヒョイ、パク。チュー。
「……」
ヒョイ、パク。ヒョイ、パク。ヒョイ、パク。チュー。
ポップコーンを食べ、オレンジジュースを飲み、またポップコーンを食べる。
リズムよく一定のペースを刻むエストを尻目に見ていると、なんだか画面より隣の様子が段々気になってくる。
結局、エストに気を取られた俺は終盤の内容がすっかり頭から抜け落ちてしまった。
† † †
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