第二百十一話 磨上原の合戦その九
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「そして都まで戻るぞ」
「全てが終わった後で」
「そのうえで」
林兄弟も応える。
「そうなりますな」
「ようやく」
「そうじゃ、戻るぞ」
また言ってだ、そしてだった。
林兄弟は猪苗代城に入り兵を収めたばかりの政宗に信長の言葉を受けた、信長は城の主の間でその言葉を聞いてだ。
そのうえでだ、こう二人に言った。
「ではな」
「はい、では」
「これよりですな」
「織田信長殿にお会いしよう」
このことを約するのだった。
「織田殿の本陣に参上してな」
「では」
「その様に」
「うむ、織田殿にお伝えしてくれ」
確かにこう言ってだ、林兄弟を帰らせた後でだ。
そしてだ、こう言うのだった。
「さて、ここからじゃ」
「殿がですか」
「されますか」
「織田家に降る、しかしじゃ」
それでもだというのだ。
「ただ降ってはじゃ」
「面白くない」
「そうだというのですな」
「そうじゃ」
まさにというのだ。
「織田殿は傾いているという、しかしな」
「殿もですな」
「殿もまた」
「そうじゃ、わしもじゃ」
まさにというのだ。
「傾奇者じゃからな」
「ここは傾きをな」
「織田殿にお見せするのですな」
「さて、伊達政宗一世一代の傾きじゃ」
政宗は楽しげに笑いつつ言う。
「それを見せようぞ」
「では」
「これより」
家臣達もその政宗に楽しげに応える、そうしてだった。
政宗は信長の本陣に片倉、成実達伊達の主な家臣達を連れて参上した。その時政宗の姿を見てであった。
織田の者達は皆面喰らいだ、こう言った。
「何と」
「ああした姿で来るとは」
「いやいや、伊達殿は何を考えておられるのか」
「これはまた珍妙な」
こう言うのだった、そして。
政宗は出迎えた羽柴にだ、不敵な笑みでこう言った。
「千利休殿はおられるか」
「利休殿ですか」
「左様」
まさにその彼がというのだ。
「おられるな」
「はい、利休殿でしたら」
秀吉は最初は思わぬ言葉に表情を変えたがすぐに陽気に笑って返した。
「本陣におられます」
「それは何より」
「しかし何故利休殿ですか」
「利休殿は天下一の茶家と聞く」
だからだというのだ。
「是非ここは茶を教わりたいと思いまして」
「それでなのですか」
「左様、是非にと思いまして」
「こちらに参られたか」
「左様でござる」
こう言うのだった。
「なりませぬか」
「いやいや、滅相もない」
羽柴は政宗の言葉にいつもの陽気な笑顔と仕草で応えた。
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