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ソードアート・オンライン‐黒の幻影‐
第2章 夜霧のラプソディ  2022/11
11話 微かな道標
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で、ヒヨリとの距離も引き離されていく。古樹が茂る森故に経路もまた障害が多いというのに、それでさえもヒヨリの勢いを殺せていない。意に介することなく、圧倒的な俊敏性を以て踏破してゆく。俺としてはかなり辛い。
 誰かが困っているようなら、分け隔てなく手を差し伸べようとするのは、ヒヨリの長所なのかも知れない。リアルでの記憶でも、ヒヨリはその優しさを以て他者に助力しようと動いた事は枚挙に暇がない。しかし、自らの分を弁えないというよりは己の力量を見極めない点もあり、その所為で苦労を負った経験も多い。大抵巻き込まれる側だった俺は当人以上にダメージを負っているが、このSAOにおいて、その美点は悪手を講じる最大の要因に他ならない。最近は鳴りを潜めていたから油断していたが、こうも直線的に行動されては堪らない。しかし、俺のステータスでは回り込んで止めるわけにもいかない。もはや手助けするしかないだろう。

 腹を括り、一心不乱に森を駆け抜けるヒヨリの白いコートを目印に何とか食らい付こうとするも、必死の追跡は意外に二分も掛からずにヒヨリが立ち止まり、腰に佩く細剣《フロウメイデン》を抜き放つ。ようやくヒヨリに追いつくと、鬱蒼としていた枝葉は密度を急激に薄めて、開けた場所に出たことが窺えた。やや断層じみた崖の下で、三人のプレイヤーが十を超える森エルフと交戦しているのを視認したのは間もなくの事だ。もう少し冷静に考えたかったという後悔と、間に合ったという安堵が綯い交ぜになった複雑な心境を飲み下し、冷静に、確かに存在する《勝ち目》をイメージしつつ、先行したくせに行動を選択しあぐねているヒヨリに諭すように聞かせる。恐らくは、人間(プレイヤー)と変わらない動作、それ以上に人間そのものの外見を持つ彼等に戸惑っているのだろう。だが、今はその間さえもあってはならない。


「あれはプレイヤーじゃない、モンスターだ」
「でも!?」



 驚愕するヒヨリには、正直賛同せざるを得ない。
 何せ、どうみても人間の外見そのものであるモンスターなど、ベータテスターだった頃の俺でさえもこの階層を訪れてからが初見であった。当初はソロであったが、これがPTで、うっかり似た顔つきのエルフとPTメンバーがいたら、乱戦となった際に見分けられるだろうかと気になったものだ。それほどに、彼等はプレイヤーと酷似している。
 さながら、多数のプレイヤーが少数のプレイヤーを攻撃しているかのような光景。錯覚してしまってもおかしくはない。もしかしたら、ヒヨリには一瞬でもそう見えてしまったのかも知れない。実際にPKが行われていたのなら事件ではあるが、システムが操縦する魂のない存在だ。攻撃に躊躇う理由はどこにもない。


「二体引き付ける、いつも通りやるぞ! 悩むのは助け出してからにしろ!」
「う、うん!?」
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