3部分:第三章
[1/2]
[8]前話 [1]次 最後 [2]次話
第三章
「是非」
「それではです」
「こちらに」
一行はある扉の前に来た。やはり黒い鉄の重く冷たい扉だった。まるで全てを遮断するような。そうした暗いものを感じさせる扉だった。
その前に来てだ。二人の医師がまた彼女に話した。
「では。いいですね」
「今からです」
「はい」
彼女はだ。二人の言葉にこくりと頷いた。これが返事だった。
「御願いします」
「わかりました。それでは」
「中に入りましょう」
こうして中に入るのであった。するとだ。
殺風景な、コンクリートの壁の他はこれといって何もない部屋の隅に粗末なベッドがある、それだけの部屋だった。そしてその粗末なベッドにであった。
彼が寝ていた。そしてだ。
三人はその顔を見る。大きな口髭がある。
だが髪も肌も何もかもが乱れたままだ。そして目を閉じて寝ていた。
妹はだ。その兄を見てから医師達に尋ねた。
「やはり兄は」
「はい」
「相変わらずでした」
これが返答だった。
「やはり。何かわからないことを述べられ」
「そしてただ虚ろな目で」
「そうですか。変わらないんですね」
「かつての知性は何処にも」
壮年の医師の言葉は悲しむものだった。
「完全に失われてしまっています」
「確か」
若い医師も言う。
「この方はこの国に知られた方だったのですね」
「そうだ。君は哲学は読まないのだったな」
「どうも性に合わないので」
それでだというのである。
「それで」
「そうか。それなら知らなかったのも道理だな」
「申し訳ありません」
「謝る必要はない」
壮年の医師はそれはいいとした。
「だが、だ」
「この人はですか」
「知っておいてくれ。これからな」
「わかりました」
「間も無く。この世を去るのだから」
だからだというのだった。確かに彼は今死のうとしていた。その荒れた肌は土色になっている。今まさにこの世を去ろうとしている。
その彼を見てだ。妹は兄に声をかけた。
「兄さん」
「・・・・・・・・・」
返事はない。目を閉じて寝ているだけだ。
それでもだ。妹は兄に声をかけるのだった。
「最後に何か望みはあるかしら」
「もう。何も飲まれないし召し上がられもしません」
「何もです」
医師達がここで話すのだった。
「そして何も欲しがることはありません」
「わからないことを呟やかれるだけです」
「そうですか」
「はい、ですから」
「もう」
「こうして」
医師達の言葉を聞いてだ。妹は悲しい顔で述べた。
「最後を見守ることしかできないのですね」
「まことに残念ですが」
「今は」
「わかりました」
妹も二人のその言葉に頷いた。
「それでは今は」
「おそらく。あと数日です」
「もっ
[8]前話 [1]次 最後 [2]次話
※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりを挿む
[7]小説案内ページ
[0]目次に戻る
TOPに戻る
暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ
2024 肥前のポチ