貴方の背中に、I LOVE YOU (前編)
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徳商売で有った。そんな商売に、自分も加担している様で、静は後ろめたさを、感じていた。仕事が終わり、銭湯に立ち寄ってから、土蔵に辿り着き、平らに母乳を与え、貧祖な食事を口のする、蝋燭一本の生活であった。
静が、良枝夫婦の食料品店で働きだしてから、一ヶ月程過ぎた夜に、突然、武志が土蔵に尋ねて来た。「今の仕事を失ったら、お前達は餓死だ!」と脅し、強引に静の体を奪った。武志には、最初から静を雇って、静を自分の物にする魂胆が有ったのだ。枕元で熟睡していた平が、泣き出した。静を奪った後で、武志は静の横に身を寄せ、「これから一生、二人の面倒をみる」などと、不確か事を話し、土蔵を後にした。静は、土蔵の屋根の隙間から、漏れる月明かりを、見ていた。静の目には、口惜しさと惨めさで、涙が流れていた。気が付くと、先程まで泣いていた平が熟睡していた。静は、毎日、合掌している義衛門夫婦と愛犬まつが入った骨壺に、覆いを被せ、乱れた衣類の胸元から、正義の手紙を取り出し見詰めていた。翌々日、静は重い足取りで、良枝夫婦の店に出勤した。しかし、静の顔からは笑みが消えていた。武志は頻繁に、土蔵に訪れ静を求めた。武志が土蔵に居る間は、生気を失った人形の様だった。武志にとって、不器量で勝気な良枝は、美しい静とは比較に成らなかった。武志が帰った後は、静は何時もの優しい顔に戻り、平を両膝に置いて、何回も読んだ正義の手紙を読み返した後、義衛門から受け継いだ、手記を書き始めた。
平が、三歳に成った頃の夜、土蔵の前から犬の吠える声が聞こえた。静が土蔵の戸を開けると、一匹の黄色い犬が、土蔵に飛び込んで来た。犬は静の顔を、尾を振りながら舐めた。少し間をおいて、静が「黄子?黄子だよね?」と言った。犬は、静に抱き付いて再度、静の顔を舐めた。三年ぶりの、黄子との再会であった。静は良枝に、仕事場に犬を一緒に連れて来る事を懇願した。良枝は難色を示したが「最近は物騒な時代で、泥棒も多い。番犬に成るかも?」と言って、渋々了承した。黄子は静と平と使用人の二人には懐いたが、良枝家族には懐かなかった。平は、哲也とは相性が悪く、平は、中庭の黄子と遊ぶ方が多かった。店の使用人の二人も、良く自分達の昼飯の残りを、黄子に与えていた。
ある日、静が何時もの様に商品を整理していると、一台の進駐軍のジープが店の前に止まった。静がジープに目をやると、運転席に若い米人の軍人、助手席に中年の米人の将校、後部席に、派手な衣装を身に着け、厚化粧をした、日本女性が乗って居た。彼女と静との目線が合った瞬間、彼女は咄嗟に自分のネッカチーフで、顔を隠した。一人、中年の将校が降りて、店の中に入って来た。武志が頭をペコペコと下げて、中年の将校に札束を渡した。それは横流しの代金であった。中年の将校は金を受け取ると、即、ジープに乗った。ジープは走り去った。静は、先程のジ
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