貴方の背中に、I LOVE YOU (前編)
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に安堵感を感じていた。
静の質屋通いで、食い繋ぐ日々が続いていた。義衛門が土蔵に貯めた財産も、金品は戦前、軍部に没収され、残りの品々も、底を来たす状態に成っていた。静は膨大な財産を義衛門から受け継いだが、殆どが土地や株式で、物資が不足している当時は、生活の足しには、成らなかった。まして、義衛門の工場の跡地は、進駐軍に利用されていた。静は土蔵の外で、考え込んで居た。一時間ほど過ぎて静は、土蔵の中に入って来て、サトに声を掛けた。まず静は今迄の、サトの労を労った。自分達の窮状を話し、これからも三人、一緒に居たら、サトばかりに苦労を掛ける事や、若しかしたら、三人とも、生き倒れに成る事を話し、サトに、信州の親元に、帰る様に促した。サトは「私が働いて、食べ物を、買って来ます」と言って、何度も、三人一緒の生活を、懇願した。サトの瞼からは、幾筋もの涙がこぼれていた。静は、苦労を一手にサトに負わせる事など、出来ないと思っていた。静は、サトが制するのも聞かず、土蔵に残っている全ての金品や、朝子の形見の着物までも、風呂敷に包み、サトに旅費として渡した。暫くして、サトは、風呂敷包みを手にして、立ち上がった。「お世話に成りました。平君さようなら」と言い、土蔵を出て、夕闇の中に消えていった。静の目には、涙が溢れていた。静は土蔵に戻り、平を仰向けに寝かした。そして「ごめんね、天国の、お爺ちゃんとお婆ちゃんの処に、一緒に逝こうね」と言って、平の首に、両手を掛けた。平がニッコリ笑った。その笑い顔を見て、静は我に返り、両手を外した。
時間が過ぎた。静は未だ、何も口にして無かった。少しして、平が泣き始めた。静は出の悪い乳を、平らに与えた。そして平を抱き、眠りに付いてしまった。
翌日から、静は仕事探しに翻弄した。だが、乳飲み子を背負っての、静を雇ってくれる所は、何処にも無かった。土蔵に帰って来た。疲れた。静は、その間々、眠り込んでしまった。夜中に、平が、お腹を空かして、泣き始めた。静は起き上がった。良く見ると、土蔵の出入り口に、何か置いて有る事に、気が付いた。手にすると、それはサトに渡したはずの、風呂敷包みと、紙袋に入った食べ物であった。咄嗟に静は、土蔵の表に飛び出し、サトの名前を呼び続けたが、サトの姿は何処にも無かった。風呂敷包みを開けて見ると、それはサトに渡したはずの物が、手付けず全て有り、走り書きの手紙が添えて有った。[私は若奥様に、ずっと嘘を言っていました。御免なさい。私は両親の顔を、知りません。私の帰る家は有りません。幼い頃から、親戚の家を転々と歩きました。最初に、大旦那様の会社に同行した人は、私の父親では無く、遠い親戚の人です。だから私は、田村家に置いて貰った日々や、土蔵で若奥様と平君と暮らした日々が、一番幸せでした。私は、貧しさには、慣れています。田村家で皆様と、食事をした事を
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