貴方の背中に、I LOVE YOU (前編)
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。翌月の二月三日に難産の末、男子が誕生した。赤子は若干、体重が少な目であったが、母子共に健康であった。夫の意か、赤子の生れた日は、厄払いの節分の日だった。取分け、義衛門・朝子は、正義の訃報で一時、落胆したが、田村家に跡継ぎが出来たと大喜び、静も赤子の可愛さで、日増しに元気を取り戻した。正義の手紙通り、息子は平と名付けられた。
日々、アメリカ軍による、空爆の激しさが増してきた。この町は、軍事施設も多く、軍の飛行場も存在したので、B29の爆撃の、標的に成った。空襲警報が鳴り響いた。その夜の空爆は、凄まじかった。義衛門は、静と赤子の平とサトを、急きょ土蔵に退避させたが、自分達は一代で造った屋敷に固執し、屋敷に残った。夜が明けて、三人は土蔵から外に出た。静は、外の光景に愕然として立ち竦んだ。木造造りの我が家は跡形も無く焼失し、三人が避難した土蔵だけが残って居た。瓦礫の中から、無残な姿で、義衛門・朝子と愛犬まつが見つかった。しかし、黄子だけは居なかった。夫婦と愛犬まつは、寄り添う様に死んでいた。「お爺ちゃん、起きて。お婆ちゃん、起きて」「お爺ちゃん、起きて。お婆ちゃん、起きて」「お爺ちゃん、起きて。お婆ちゃん、起きて」「お爺ちゃん、返事してよ。お婆ちゃん、返事してよ」「お爺ちゃん返事してよ。お婆ちゃん、返事してよ」と、何度も、何度も、何度も叫んだが、返事は無かった。何時間が過ぎただろう。静は未だ、二人の焼け爛れた顔を、見詰めていた。最愛の人を亡くした、静の悲しい・悲しい別れであった。背中の平が泣いていた。見かねたサトが、静を土蔵に連れ込んだ。静は平らに母乳を与えた。飲み終えた平は、眠ってしまった。
役所の人間が、爆死した人々の処理に当たっていた。静の所にも訪れた。役人は「今は、お亡くなり成った方が多すぎて、火葬が間に合いません。遺族も、火葬にも立ち会う事が、出来ない状態です」と、静に伝えた。役人が、義衛門と朝子の遺体を、搬送仕様としたが、愛犬まつは、搬送される気配が無かった。静が問うと「人間で手一杯です、動物は・・・」と、役人は難色を示した。そして役人は「規則ですので、故人の名前と、遺族の名前を教えて下さい」言った。静は、義衛門と朝子と自分の名前・赤子の名前を教えた。役人は「著名な田村義衛門さんですか?失礼しました。私の母親は元、義衛門さんの工場で、働いて居ました。私も、色々、お世話に成りました。犬も一緒に、火葬させて頂きます」と、内諾してくれた。十日位過ぎた。先日の役人が、自分の母親を連れて訪れた。母親は「社長は優しい人でした。いつも私達、従業員の事を、優先して考える方でした。息子から、お亡くなりに成ったと聞いて、せめて線香だけでも、上げさせて貰おうと思い、やって来ました」と言った。息子の役人は「今は物資が不足しているので、骨壺も数に限りが有ります。義
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