貴方の背中に、I LOVE YOU (前編)
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い立ちに付いては、全く、気にしていません」と言った。義衛門は、暫く目を閉じた。そして目を開き、青年に「静を宜しく、お願いします」と言って、隣の部屋で控えていた静を呼んだ。若い二人の談笑が始まったので、田村夫婦は遠慮して席を外した。
翌週、若い二人は合祀の墓前に立って居た。静は正義に「私は捨て子です。本当に良いの?」と確かめる様に、聞いた。正義は優しい表情で、頷いた。二人は合掌して実母・雪と犬達に婚約を報告した。寺の桜の花が舞い落ちる、晩春だった。その年の秋に、中村家・田村家の結婚の儀が執り行われた。戦時中での世の中は、贅沢は敵だ、と言う、ご時世だった。にもかかわらず、義衛門は自分達夫婦の、静への集大成だと考えていた。結婚式は、豪華盛大で参列者も多かった。新郎新婦の両脇には武井夫婦が、頼まれ仲人で座って居た。六郎は、その頃、義衛門が最も信頼出来る部下で、義衛門の片腕の専務まで昇進して居た。参列した武井兄妹の中に、安造の姿は無かった。静が、隣の席の六郎に聞くと「今は、所在不明です」と言われた。来賓で、この町の市長が挨拶した。市長の話は、自分の実績と選挙目当ての長い挨拶に終始し、参列者は、あくびをしていた。披露宴も中盤に差し掛かった頃、司会者が祝電を読み始めた。その中に、安造の祝電が有った。「静ちゃん、おめでとう。キャラ弁、三人で食べたね。美味しかったよ。田村家の皆さん、有難うございます」と、書かれていた。静と澄子は胸に、古の熱き物を感じた。それが、安造が静に送った生涯の最後の言葉に成った。安造は今も、静に恋心を持って居たのだ。披露宴の終盤で静がマイクを取った。今まで、隠し続けていた自分の生い立ちを、参列者の前で話し始めた。「アンデルセン童話に、マッチ売りの少女という、お話が有ります。雪の降る夜、少女は、道行く人々に[マッチは如何ですか?マッチ有りますよ?]と、声を掛け続けました。マッチは殆ど売れませでした。[寒い]と言い、少女は一本のマッチに、火を付けました。暫くして[寒い]と言い、少女は二本目のマッチに、火を付けました。暫くして[寒い]と言い、少女は三本目のマッチに、また火を付けました。翌朝、路上に、雪を被り息が絶えた少女の姿が在りました。少女は、天国の両親の元へ、召されて行きました。雪の上には、数十本のマッチの燃え殻が、点在して居ました。私は、この童話が大好きです。幼い頃、お婆ちゃんやタキさんに頼み、何度も何度も読んで貰いました。私も、十九年前の寒い夜に、田村家の門の前に捨てられました。でも、お爺ちゃん、お婆ちゃん、タキさんは、私を何不自由無く、ここまで育ててくれました。お爺ちゃん、覚えていますか?小学校の入学式の事・運動会の事・私のどうして質問に、百科辞典で調べていた事・・・・、お爺ちゃん、お婆ちゃん、タキさん、本当に・本当に有難うございます
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