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超人
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第一章

                         超人
 ある病院でだ。こんな話がされていた。
「今日もか」
「はい、今日もです」  
 若い白衣の医師が壮年の医師に述べていた。
「相変わらずです」
「乱れたままか」
「やはり。何をしても」
「それはわかっているにしてもだ」
 壮年の医師は困った顔で若い医師に言うのであった。
「しかし。それでもな」
「それでもですか」
「素晴しい人物だった」
 そうであったとだ。こう若い医師に話すのである。
「君もあの患者のことは知っているな」
「何でもかつては学者だったとか」
「哲学者だった」
 壮年の医師はこう話した。
「そう、かなり個性的な、な」
「個性的だったのですか」
「そうだ。あんな哲学者はいなかった」
 ここまで言うのだった。
「だからこそ素晴しかった」
「そうだったのですか」
「神は死んだ」
 壮年の医師は顔を見上げさせてこの言葉を出した。
「この言葉もな」
「神は死んだ、ですか」
「人は超人になれと言ったのだ」
「超人ですか」
「そうだ、それが彼の言葉だった」
 言葉はどれも過去形だった。それしかなかったのだ。
「だが。今はな」
「最早何を言っているのかわかりませんし」
「日常の生活すらできなくなっているからな」
「廃人です」
 若い医師は唇を口の裏から噛み締めながらこう言った。
「最早。あれは」
「そうとしか言えないな」
「はい」
 壮年の医師の言葉にも答えた。
「あれでは」
「それはわかっている」
 壮年の医師も頷く。
「残念だがな」
「残念ですか」
「惜しい」
 また顔をあげてだった。だが今度の顔は目を閉じてそのうえで何かを堪えるような。そうした顔になっての言葉であった。辛いものだった。
「あれだけの哲学者がああなるとはな」
「原因もわかりませんし」
「そうだな。それはな」
「しきりに頭を抱えてはいますが」
「梅毒ではないか」
「眼病でもないようです」
 この二つは否定された。
「頭の中に何かがあるようですが」
「それによってか」
「ではないでしょうか」
「神も残酷だ」
 壮年の哲学者は今度は神にたいしてこう思わざるを得なかった。
「全くな。己を否定したからだろうか」
「その神は死んだという言葉ですか」
「そのせいか」
 壮年の医師は今度は考える顔になった。
「それで。狂気に陥ったのか」
「あの様になって」
「今はもうどうにもならない」
 壮年の医師は今度は首を横に振った。
「あれではな」
「それでなのですが」
 若い医師がまた彼に言ってきた。
「最早幾許もありませんし」
「家族を呼ぶか」
「妹さんがおられましたね」
「うむ、常に世話をして
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